各大学が学力試験以外で選抜を行う「総合型選抜」を取り入れるようになり、入試の様相も変わってきている。塾へのアクセスなどで首都圏と地方での格差がある中で、首都圏の人気大学は総合型選抜で地方の優秀な学生をいかに取り込むかという課題に取り組んでいる。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする「推薦入試の現在地」。【全4回の第3回。第1回から読む】
* * *
地方の高校生が東京の難関大に進学しにくい理由はいくつかあるだろう。たとえば、経済的なことが一因でもあると思う。東京の大学に進学するとしたら学費以外に生活費がかかる。大学の寮も食費込みで月9万円ほどかかる。
そのうち、「教育格差」という点に絞って考えてみよう。たとえば、東北地方には本格的な塾機能がほぼ仙台にしかない。それで幼い頃から塾通いをしている首都圏の受験生たちに太刀打ちできるわけがないのだ。しかし、学力以外の要素も見る推薦入試ならば地方の高校生も都会の高校生と互角に戦えるのではないか。その例として、探究学習を取り入れ、東大の推薦入試で毎年合格者を出している県立山形東高校やその卒業生を取材した。
今回はこの「地方と東京の教育格差」について、大学側はどう考えているのかについて探っていく。まずは東京・四谷にある上智大学を取材した。
上智大学は1998年度から公募制の学校推薦型入試を行っている。大学からの指定校推薦の枠が与えられなくても、学校長の推薦があれば出願できる試験だ。ただし、指定校推薦の場合、出願すればまず合格するが、公募制の推薦の場合は出願者も多くなるので、しっかり準備をしないと合格できない。
特に上智の公募制学校型推薦入試は人気が高く、たとえば直近の入試では、総合人間科学部の心理学科は56人が志願して合格者が12人、倍率は4.7倍となっている。
「制度導入当時から地方の高校生に『君たちのための入試だ』とアピールしてきました。当時は現在ほど予備校のオンライン授業も普及しておらず、首都圏の高校生に比べて一般受験対策で苦戦を強いられていました。でも、公募制推薦は主体性、思考力や表現力を重視するので、対等に競える入試だからです」(上智大学入試センター事務長・飯塚淳氏)
上智の公募制学校推薦型入試は本格的な課題レポートを提出させる。それを書くためには文献を自分で探して読む必要があり、リサーチ力、読解力、表現力、情報の処理力、思考力といった「大学入学後の学びに直結する能力」が試される。部活やボランティアなどの活動実績を重視しないで純粋に「大学で何を学びたいか」を問う入試になっている。
推薦対策の塾や学校の教師の添削の力で、優秀な課題レポートになっている場合もあるから、二次試験では小論文試験や面接を行い、本人の能力や意欲を確かめる。