大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

カナダ企業から買収提案を受けたセブン&アイが取るべき対応策は? 大前研一氏が「買収提案は渡りに船」と考える理由

ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏

ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏

 クシュタールに買収されれば、同社が送り込むプロ経営者によって権力抗争に関わる現経営陣は退任させられ、会社にとって「百害あって一利なし」の内紛に終止符を打てるだろう。

 また、前述したようにセブン&アイの時価総額は5.6兆円だが、日本経済新聞(8月27日付)によれば、同社の海外・国内コンビニ事業、スーパーストア事業の合計価値は8.61兆円で、純有利子負債の2.21兆円を差し引いた株主価値(株主に帰属する価値)は6.39兆円だ。

 複合企業の市場評価が各事業の合計価値よりも低い「コングロマリット・ディスカウント」状態になっているわけで、7兆円なら株主価値を超えるから、株主にとっても悪いディールではないと思う。

売却しても買い戻せる

 では、売却後のセブン-イレブンとイトーヨーカ堂の経営はどうなるのか?

 心配は無用だ。クシュタールが日本のコンビニやスーパーを経営するのは無理だから、大規模な業務改革はできないだろう。

 日本の小売市場は海外と大きく異なり、消費者は品質にも価格にも非常に厳しく敏感だ。このため日本のコンビニやスーパーは顧客を徹底的に研究し、その嗜好の変化に合わせて商品の仕入れ先や値付け、陳列方法などを常に工夫している。そういう芸が細かいことは、とにかく大量に仕入れて大量に販売する欧米の小売企業にはできないのだ。

 実際、これまで日本に進出した欧米のスーパーは、アメリカのウォルマートもフランスのカルフールもイギリスのテスコも日本市場の特異性を捉えきれずに相次ぎ縮小・撤退していった。

 クシュタールは北米や欧州をはじめ31か国・地域でコンビニ「クシュタール」「サークルK」など約1万6700店を展開しているが、その成長戦略はM&A(合併・買収)を重ねるだけの“積み木ビジネス”で、消費者との接点で真面目に経営しているとは言い難い。ビジネスの判断基準が「経営できるかどうか」ではなく「買収できるかどうか」なのである。

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