したがって、おそらくクシュタールは日本ではウォルマートやカルフールなどと同じ轍を踏むだろう。日本で失敗すれば、株価が大きく下がって“お買い得”になる。その時に備え、セブン&アイは事業売却益を基にファンドを作っておき、クシュタールの事業を全部まとめて買収して新たな経営陣が立て直せばよい。
このところ、セブン&アイの業績は低迷気味だ。2024年2月期は営業収益が11兆4700億円、純利益が2250億円で、ともに前期より落ち込んだ。
国内コンビニ事業の既存店売上高も伸び悩み、一度失敗したドーナツを再び売り出したり、店内で調理した冷凍ピザの宅配を始めたり、「うれしい値!」と銘打って348円弁当などを投入したりと迷走している。
私に言わせれば、それも伊藤派と鈴木派の確執が生み出した宿痾にほかならない。セブン-イレブンの商品開発力は他のコンビニを凌駕しているのだから、右顧左眄せずに従来通り“王道”を行くべきだと思う。
とにもかくにも、セブン&アイにとって今回の買収提案は「渡りに船」であり、内紛を一掃する絶好のチャンスと捉えるべきなのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年10月18・25日号