のび太の父親「のび助」も一戸建ての主じゃないか!
日々、地元の友人や遠方から来る友人と飲み屋へ行き、記憶を飛ばして気付いたら朝に。東京に出張に行くとなると大学生から「飲みましょーよ」なんて誘われ、安居酒屋で彼らから「中川さん、飲み過ぎですよ~」なんて笑われる始末。
それを考えると、3年後に迫った「波平と同年齢」になったときに、言いようのない劣等感を覚えてしまうのでは……なんてことも頭をよぎるのです。何しろ専門商社に勤める波平は、月収78万円という描写がアニメであったことから、年収は1100万~1300万円とも推定されます。さらに娘婿のマスオさんも稼いでいるため、磯野家の家計は安泰でしょう。
カツオとワカメは小学生でまだまだ教育費もかかりそうですが、昭和当時の定年退職年齢である55歳になってもそれまでの貯蓄と年金があれば、なんとかなると思っているのでしょう。「バッカモーン!」とカツオに説教をし、お茶の間ではいつも中心にいる波平。そしてとにかく誰に対しても丁寧に接する妻・フネ。これが私が子どもの頃に植え付けられた「50代は立派で倫理観に溢れている大人」のイメージだったのです。
しかし実際に50代になってみると、現実はまったく違うわけで、もうこうなったら破れかぶれで60代になっても今と同じような感覚で過ごしてやれ、とさえ思うようになりました。赤いチャンチャンコなんていらん! お年玉は年始にお邪魔した家の子どもにだけあげる。好き放題海外に行く。家は絶対に買わない――さすがに「年代別ロールモデル」を20~50代まで達成できなかった人間はこう割り切るしかない。
ちなみに、子ども時代の私にとって、もうひとつの大人のイメージが、『ドラえもん』に登場する小学5年生・のび太(10歳か11歳)の父親「のび助」でした。原作とアニメで設定も異なるようですが、たぶん30~40代だったはず。いずれにしても、2階建ての家を持ち、家に帰れば浴衣を着てタバコを悠々と吸うような余裕のある大人です。というわけで、昭和マンガの「30代」「40代」「50代」というものは、もはや戦国時代やら江戸時代と同様の「大人」を描いていると考えてもやぶさかではないのでは。だからヘンに比べてみても仕方がないのかな、と思うようになりました。それぞれが自分の人生を過ごせばいい。
とはいっても、「いや、私は自分のイメージした通りの大人になっている」と考える人に対しては、素直に敬意の念を抱いてしまいます。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。