ドナルド・トランプ氏の大統領返り咲きにより、世界情勢は不確実性を増している。難しい舵取りを迫られる石破茂・首相だが、カギとなるのは“超一強体制”を築き上げた中国・習近平政権との関係性だという──新刊『あぶない中国共産党』を共著で発表したばかりの2人、中国に関する著書が多数ある社会学者の橋爪大三郎氏と元朝日新聞中国特派員のジャーナリスト・峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)が激論を交わした。(文中一部敬称略)【全3回の第3回】
習近平政権の行き詰まりと表裏になっている市民の絶望感
峯村:中国国内に目を向けると、最近、無差別殺傷事件などが相次いでいます。橋爪先生はどう見ていますか。
橋爪:自分の人生はもう終わったと、他人を巻き込む自暴自棄型の事件ばかり。若い人も高齢者も不況で先が見えず、みんな相当参っています。
日本と違うのは、経済が悪化しても共産党支配が完璧で、不満の捌け口がない点です。共産党に睨まれれば国内に居場所がなく、生きていられない。だから外国に行く準備をしている人が多い。
1980年代の改革開放の頃はまるで違った。都市や農村で経済活動が活発になり、熱気とエネルギーが渦巻いていた。その後は貧富の格差や汚職の蔓延などの矛盾が表面化しましたが、今のような絶望感が行き渡ることはありませんでした。
峯村:60代の男が運転する車が次々と人をはねて35人が死亡した広東省珠海市の事件(11月11日)の翌日、習近平氏が自ら治安対策の徹底や困窮者への支援強化を「重要指示」として発表しました。異例の対応にもかかわらず、その後も無差別殺傷事件は各地で起きている。
デジタル監視社会の徹底による締め付けに加え、一人ひとりに点数が付く信用システムにより敗者復活が許されない社会で、追い詰められた個人が多数の一般市民を巻き込んで社会に報復している。本当に根深い問題です。
橋爪:そういう市民の絶望感は、習政権の行き詰まりと表裏になっている。