かつて「まずい」と評判だった食材が、後に高級食材になっていることがある。たとえば大トロ。脂っぽ過ぎて江戸の人々は好まなかったと言われる。そしてウニ。ソ連時代のロシアでは大量に取れても数ルーブルにしからなかったという──。現代でも、一般的にはそこまでおいしいと思われていなくとも、実はウマい食材は多いと語るのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏。佐賀県唐津市で山と海に囲まれて暮らす中川氏が、以前はわからなかった、一見不人気だけど実はおいしい食材の秘密についてレポートする。
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まずはイノシシです。臭い、固い、などと散々な言われっぷりですがそれは捌き方が悪いのかもしれません。私がいつももらうのは、イノシシ捌きの名人で佐賀県伊万里市の猟友会会長が捌いた個体です。時期としては10月~12月がシーズンです。罠にかかったイノシシの頭部の急所にグサリと槍を刺し、血抜きを一気に行う。そして内臓を除去するのですが、膀胱を破らないようにするのがポイント。何しろ尿が臭いんですよ。内臓を傷つけることなく見事に切れたら、後は空洞となった腹の中を水で丁寧に洗う。この段階で血はほぼなくなっています。
その後は農家の金吾さんの所有する小屋にイノシシを吊るし、皮をはぎ、肉を各部位に分けていくのです。新鮮なイノシシ肉はワインのロゼのような色をしています。初めてイノシシの肉をもらったのは2022年5月ですが、以来、牛と豚のカレーは一切作らなくなりました。何しろ、このイノシシが牛と豚の良い点を掛け合わせたような味で、大きめに切ったイノシシを圧力鍋で煮込めばホロホロになってくれるのです。豚汁ならぬイノシシ汁もウマいです。