2030年までに東北地方の耕作面積を超える規模の農地が“消滅”する──先ごろ農林水産省がまとめた推計が波紋を呼んでいる(詳細は前編記事〈【ニッポンの農業危機】2030年までに農業従事者は半減、農地も2割減に 東北地方の耕地面積を上回る規模が“消滅”する〉参照)。農産物の国内生産を維持するには農地の集約などを進める必要があるが、人口減少と高齢化の影響で若い世代への引き継ぎが進まず、将来展望は描けないままだ。
日本が抱える重大課題に斬り込んだ新書『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリスト・河合雅司氏が、日本の農業の危機を踏まえて、現実的な打開策について提言する【前後編の後編。前編を読む】
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全国の農家で若い世代への引き継ぎが滞っている大きな要因は、少子化で継承する若者が少なくなったことだけではない。農産物の価格転嫁の動きが鈍いことも挙げられる。
食料品というのは、言うまでもなく最も基礎的な生活物資だ。なるべく安く購入したいとの心理が多くの消費者に働くのは自然なことである。
一方、農産物は消費者の手元に届くまでにいくつもの流通過程を踏むため、各段階の取り引きにおいてこうした消費者心理を受けた価格競争が起きやすい。生産者は価格転嫁をしづらい環境に置かれているのである。
肥料や飼料の節約には限界があるのに、思うように価格転嫁が進まないとなれば、そのツケは生産者に回る。肥料や飼料の高騰が著しい昨今のような局面においてはなおさらだ。収益が落ち込み農業経営への影響が大きくなる。農業が「苦労が多い割に儲からない仕事」となっているのでは、若い世代が就農をためらうのも当然だ。
農水省のデータからは、「儲からない農業」を避けようという動きも見て取れる。年に複数回の生産が可能で面積当たりの付加価値が大きい施設野菜や露地野菜への集中が、土地・資金を独自調達した就農者や企業の新規参入を中心に目立つ。コメづくりより利益が得やすい作物へと人が流れているのである。