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河合雅司「人口減少ニッポンの活路」

農業が「苦労の割に儲からない仕事」となっているワケ 農産物の適正 な価格形成と消費者支援のために検討すべき“食料品を消費税の対象から除外”

農業従事者「激減」で手遅れになる前に

 果樹も「苦労の割に儲からない仕事」という点では同じだ。温州ミカンなどは中山間地域での栽培が多く、急傾斜の段々畑に軽トラックが入れないところもある。傾斜地での作業の危険性が高いため機械化も困難で、労働生産性が向上しづらい。

 リンゴなどは比較的平坦なところでも栽培できるが、枝の広がった背の高い樹木が不規則に並び、そうした木々を回り込む作業が必要なため、こちらも機械化が進みづらく作業に手間がかかる。作業時間が長くなりがちなのだ。果樹は機械化が最も遅れている分野ともされている。

 しかも、果樹は短期に労働のピークが集中するという特徴がある。人口減少で人手不足が拡大し続ける状況下では、短期労働力を一気に集めることは非常に難しい。未収益期間が長いこともあって、新規参入が進んでいないのである。このままでは土地利用型作物や果樹の経営体の落ち込みに歯止めがかからないだろう。

 影響はそれだけではない。耕作面積の大規模な縮小は畜産農家にとっても大きな打撃だ。

 畜産も飼料費の高騰が経営を圧迫するようになってきており、国産を増やすことによるコスト削減が課題だ。しかしながら、畜産経営は規模の拡大を図っており、飼料生産を拡大する余地が少なくなってきている。

 打開策の1つとして、耕種農家(植物を栽培する農家の総称)に飼料を生産してもらう耕畜連携が期待されているが、耕作面積が急速に減ったのでは思うように計画が進まなくなる。

 こうした深刻な状況に対して、農水省は既存経営体の規模の拡大や新規参入の強化といった取り組みに加えて、【1】農地面積や労働時間当たりの収量拡大(生産性向上)、【2】単位面積や収量当たりの収益性拡大(付加価値向上)を掲げている。むろんこのような農業経営の構造転換は重要なのだが、2030年までの激減ぶりを考えると、残り時間が足りない。

 農業に従事する人が極端に減ってしまってからでは手遅れである。優先すべきは、農産物の適正な価格形成の実現であろう。

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