「食料品=消費税ゼロ」も選択肢
先述したように、農産物の価格転嫁はなかなか難しく、その皺寄せは生産者に行っている。こうした現状を改めるには、適正価格の形成に向けて関連業界を含めた体制作りを急ぐ必要がある。
とはいえ、多くの国民が物価高に苦しんでいる現状を看過することもできない。国民負担率の高まりを受けて、暮らしにゆとりのない人が増えている。今後は低年金者や無年金者の増加も懸念される。
こうした点も勘案すれば、適正な価格形成を図るのと同時に、消費者への支援にも取り組まなければならない。
農業生産者と消費者の双方の暮らしを守り、かつ食料自給率の低下を防ぐには思い切った政治決断が不可欠だ。食料品を消費税の課税対象から除外して「ゼロ税率」にすることも選択肢となろう。
農水省の今回の推計を見る限り、「日本はすでに食料安全保障上の危機に直面している」と認識することが必要だ。補助金を支給するといった小手先の対応では如何ともしがたい局面に突入している。
「食」に関するあらゆる課題にメスを入れ、「人口が減っても持続する農業」と「安定的な食料供給」が同時に実現するよう社会の仕組みを根底から作り直すことが求められる。
■前編記事:【ニッポンの農業危機】2030年までに農業従事者は半減、農地も2割減に 東北地方の耕地面積を上回る規模が“消滅”する
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。話題の新書『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。