街の景色が変わりゆくなか、2025年を占う1冊として、評論家の川本三郎氏が選んだのは、NHK取材班・著『人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」』(NHK出版新書)だ。高層ビルによる再開発が進む一方で、人間の身の丈にあった再開発も進んでいる。川本氏が同書を読み解き、考察する。
* * *
渋谷駅周辺の再開発はすさまじいものがある。古い建物が次々に壊され高層ビルがとってかわる。高齢者にはもうついてゆけない。
渋谷だけではない。虎ノ門、湾岸、秋葉原、あるいは樹木伐採が問題視されている神宮外苑。気づいてみれば東京のいたるところで高層ビルによる再開発が行なわれている。八〇年代のバブル経済期の地上げ以上のことがいま進行している。小さな飲み屋が並ぶので知られた立石でも高層ビルが建てられるという。町のらしさが消えてゆく。
いや東京だけではない。本書を読むと、日本の各地で同様なことが進んでいるという。福岡、北陸新幹線が開通した福井、富山など、本書を読むと高層ビルのラッシュに慄然とする。
東京では二〇二二年時点で百メートルを超える超高層ビルは五百二十五棟にのぼり、この二十年間で約三倍に増えたというから驚く。昭和に生まれ育った人間には東京が東京でなくなった思いがする。
それでも本書によれば、他方で高層ビルに頼らない、人間の身の丈にあった再開発、あるいはリノベーションが行なわれている街もあるというからほっとする。例えば神戸市。久元喜造市長の英断で高層タワーマンションを林立させることに否定的な立場を取り、規制条例を作った。
久元市長はいっている。これからの日本は人口減は避けられない。そんなときにタワマンを作って床面積ばかりを大きくしても仕方がない、むしろコンパクトな街づくりをしたい。再開発より、いままでの建物を生かしてゆくリノベーションを大事にする。納得する。
東京の例でいえば小田急線の地下化によって生まれた線路の跡地に作られた下北沢の線路街も高層ビルに頼らないコンパクトな街づくりに成功したいい例だろう。さらに成功例としてあげられるのは岩手県紫波町。以前、盛岡に行った帰りに新しく開設された東北本線の紫波中央駅で降りてみたが、目の前に実にきれいなコンパクトな町が出来ていて感嘆した。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号