アラの扱いで変わる仕入れと売上のカラクリ
例えば、真鯛を1匹仕入れたとします。A店では、それを捌いて身の部分を刺身にし、3000円で売っているとしましょう。A店では、頭やアラの部分を捨てているので、お店の売上は3000円で終わります。
一方で、B店では、さらに頭をかぶと煮にして700円で売り、アラを味噌汁にして300円で売っているとしましょう。すると、B店の売上は4000円になります。
1匹の鯛が、3000円になるか、4000円になるか。使い方次第で売上が変わってくること分かると思います。そうなると仕入れる魚はどう変わってくるでしょうか。仮に原価率を50%とすると、A店は1500円までしか仕入れに掛けられません。しかし、B店は、2000円まで仕入れに掛けることができます。
仕入れに1500円しか掛けられないA店と、2000円を掛けられるB店。どちらの方が質の良い真鯛を仕入れられるかといえば、高い金額を掛けられるB店であるのは当然です。
しかし、どちらの場合も真鯛の刺身の値段は同じ3000円でした。それなのに、A店は1匹1500円の真鯛、B店は1匹2000円の真鯛と差が生まれています。この差を生んだ要因は、「頭やアラを有効に活用したかどうか」という点にあるのです。
このように、魚は「1匹買いが基本である」がゆえに、その1匹を無駄なく使ってあげることで、飲食店は同じ値段でも良質な魚料理を提供できるようになります。
中には「アラ汁無料」という場合もありますが、食事全体の料金からそのアラ汁代が払われていると考えれば、話は同じです。さらには、ほかの汁物の具を仕入れる無駄を省き、限られたコストでお客に満足感を与えることができるのです。
※ながさき一生・著『魚ビジネス』より一部抜粋して再構成。
【プロフィール】
ながさき一生(ながさき・いっき)/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師。漁師の家庭で家業を手伝いながら18年間を送る。2007年、東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社で働いた後、同大学院で修士取得。2006年からは魚好きのコミュニティ「さかなの会」を主宰。漁業ドラマ『ファーストペンギン!』では監修も務める。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。