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川辺謙一 鉄道の科学

【鉄道の自動運転事情】ポートライナーで世界初の完全自動運転を実現した日本で、一部の鉄道でしか無人運転が導入されていない理由

東京の臨海副都心を走る「ゆりかもめ」の電車。全列車で乗務員が乗らない無人運転を実施している。筆者撮影

東京の臨海副都心を走る「ゆりかもめ」の電車。全列車で乗務員が乗らない無人運転を実施している。筆者撮影

 鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第28回は「自動運転」について。

自動車よりも早かった自動運転の導入

 今回のテーマは、「自動運転」です。この言葉を聞くと、鉄道よりも自動車に関するニュースを思い浮かべる人も多いでしょう。

 とくに昨年10月に米テスラが「ロボタクシー(Robotaxi)」を発表したことは、大きな話題になりました。「ロボタクシー」は、完全自動運転のEV(電気自動車)で、2ドアのセダンです。

 いっぽう鉄道には、自動車よりも先に自動運転を実現した歴史があります。また、「ゆりかもめ」などの新交通システムでは、自動列車運転装置(ATO: Automatic Train Operation)による自動運転だけでなく、乗務員が列車に乗らない無人運転をすでに実現しています。

 今回は、この理由を探りながら、鉄道における自動運転の現状を探ってみましょう。

安全を確保しやすい

 まず、結論から言います。鉄道が自動車よりも先に自動運転を実現できたのは、おもに以下の3つの理由があり、安全を確保しやすかったからです。

【1】車両がレール上のみを走行する
【2】列車運行を一括管理できる
【3】安全性が高い線路を建設できる

【1】の「車両がレール上のみを走行する」は、車両の進路があらかじめ決まっていることを指します。自動車では、ドライバーがステアリングホイール(ハンドル)を操作して「舵」を切り、進路を変更するのに対して、鉄道では、車両の運転台に「舵」を切るためのハンドルがありません。これは、4種類の輸送機関(鉄道・自動車・航空機・船)における鉄道の大きな特徴でもあります。

4種類の輸送機関の操縦。鉄道だけ、舵を操作するハンドルがない。筆者作図

4種類の輸送機関の操縦。鉄道だけ、舵を操作するハンドルがない。筆者作図

【2】の「列車運行を一括管理できる」は、「指令室」などと呼ばれる施設で車両の動きをすべて管理できることを指します。なお、高速道路会社では、「交通管制室」と呼ばれる「指令室」に似た役割をする設備があるものの、鉄道のように通行するすべての車両(自動車)の動きを厳密に制御することはできません。

【3】の「安全性が高い線路を建設できる」は、車両の通り道を人間や動物の侵入を防ぐ構造にできることを指します。また、鉄道では、駅にホームドアを設けることで、車両と人間の接触を防ぐこともできます。

 鉄道は、おもに以上の3つの理由によって、自動車よりも安全を確保しやすかったので、早期に自動運転を実現できたのです。

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