燃える中国軍装甲車(1989年6月撮影。AFP=時事)
中国は繁栄、日本は「失われた30年」に
橋爪:学生市民が政治的な要求を掲げ、平和的に集まっている時に、問答無用で武力弾圧するなんて、自由主義諸国ならありえない出来事。共産主義諸国でも許されないことです。自由に対する感度が日本政府は鈍すぎる。日本国民も、です。緩いをとおり越して愚かである。そう思います。
中国市場を失いたくないというビジネスチャンスに目がくらんで、浮き足だったのかもしれない。それに1990年当時、戦争で中国にさんざん迷惑をかけて、償いがまだ十分でないと負い目を感じる人びとが大勢いた。だとしても、なぜここまであからさまに自由を弾圧している中国に、日本が歩み寄らねばならないのか。
中国は天安門事件で1~2年足踏みをしたものの、あとは順調。30年間も年率10%近い高度成長を続けて、気がついてみれば日本を軽く追い越し、世界の製造業の中心になった。日本は産業が空洞化し、失われた30年になった。中国にしっぽを振って実利を掴んだつもりが、その反対に、みじめに経済が停滞した。
日本が停滞したのは、中国に投資が集まって急成長したあおりです。天安門事件の機会に、自由を弾圧した権威主義的国家を相手にしないと世界は宣言するべきだった。日本がその先頭に立つべきだった。そうすれば、資本移転も技術移転も起こらず、中国経済はぺんぺん草が生えていたろう。日本はずっと、世界の製造業の中心だったはずです。世界が見えていなかった日本は、自分の地位を差し出して、中国の繁栄のお手伝いをした。ゴジラを育ててしまった。いまさらあわてても遅いのです。
※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。
橋爪大三郎氏と峯村健司氏の共著『あぶない中国共産党』