貸金庫は銀行が店舗内に設置した金庫を貸し出すサービスであり、原則として中身は顧客本人しか確認できない。アディーレ法律事務所の長井健一弁護士が解説する。
「顧客が被害を訴え出る場合、『貸金庫に被害品が入っていたこと』『貸金庫から持ち主が取り出していないこと』などを特定する必要があります。しかし、貸金庫の取引には正式な目録といった客観的な記録がなく、証明は困難です」
今回の三菱UFJ銀行の事件では、今村容疑者が発覚を防ぐ目的で貸金庫の中身を移し替える際、“どこに何が入っていたか”を忘れないようスマートフォンで撮影しており、それが証拠となって立件に至ったとされる。
「一方、銀行側も利用者から紛失を訴えられた際に紛失に無関係であることを説明するのは困難です。今村容疑者の事件を受け、自分の金庫でも中身がなくなったと思い込む勘違いが増える可能性はあるし、最悪のケースでは悪意を持って窃盗被害を訴えたりする利用者が出る事態もあり得ます。その際、銀行側は紛失したことだけを訴えられても調査はできない。『紛失状況を特定していただかないと調査のしようがありません』といった応対になるでしょう」(同前)
別記事《【保管しておいたはずの宝石類が…】三菱UFJ銀行「14億円窃盗事件」により、「貸金庫トラブル」ほかにも発覚 貸金庫というビジネスモデルそのものが曲がり角に》では、事件後に起きた貸金庫をめぐるトラブルについてレポートする。
※週刊ポスト2025年2月7日号