元行員が三菱UFJ銀行の貸金庫から顧客の金品を盗んでいた──昨年11月に発覚した前代未聞の窃盗事件。事件をきっかけに注目を集める「貸金庫」をめぐっては、今後トラブルが続出する事態が懸念されている。【前後編の前編】
三菱UFJ銀行で支店長代理を務めていた今村由香理容疑者が支店で管理する「予備鍵」を不正に利用した今回の事件では、被害者は約70人、被害総額は約14億円に及んでいる。
事件を受けた金融庁の集計によると、2019年4月から2024年12月20日にかけて職員が貸金庫から顧客の現金などを着服する事案が、今回の三菱UFJ銀行の事件を含め計3件、発生していた。昨年2月にはハナ信用組合(本店・東京都渋谷区)が横浜支店で当時48歳の元次長が貸金庫の鍵を不正に複製し、中にあった現金を窃盗していたと発表している。
朝日新聞の報道では、三菱UFJ銀行では過去にも年1~2回、顧客から「金庫の中身がないのでは」と問い合わせがあったというが、いずれも顧客の勘違いなどと判断されていた。
そうした問い合わせに際しての顧客側の印象は、今回の事件を境に大きく変わると考えるのが当然であり、トラブルが続発する事態が懸念される。全国銀行協会は貸金庫についてホームページで〈銀行員が勝手にあけることはできません〉と安全性を強調してきたにもかかわらず、その前提が根底から揺らぐ事件が起きたからだ。貸金庫は信用組合や信用金庫も手がけており、影響は広範囲に及ぶ。
金庫の中身について顧客側が疑義を抱いた場合、顧客側も銀行側も難しい対応を迫られる。