ワインを楽しむ行為を「教養を手に入れる体験」へと変貌
この体験は、消費者の「マウント欲求」を巧みに満たしている。「自分には教養がある」という感覚を自然に育む仕掛けが随所に凝らされており、格別の充足感を提供するサービスへと昇華されているのだ。
セレクションへのこだわりもまた「ホームワイン」の大きな魅力である。単に高級な銘柄を揃えただけでなく、「知る人ぞ知る」希少なワインを厳選することで、ユーザーに対して「流行に流されるのではなく、本当に価値あるものを私は選んでいる」という感覚を提供している。
この徹底したこだわりによって、「さりげなくマウントを取る」ための完璧なツールとして見事に機能している。
「ホームワイン」は、ワインを楽しむ行為を「教養を手に入れる体験」へと変えた。それは、まさに新たなMX(マウンティングエクスペリエンス)の形を提案している。
現代人にとって、「知らないことが恥ずかしい」という感覚が日々強まる中で、ホームワインは学びの手段以上の意味を持つ。知識を深めるだけでなく、ワインを通じて自己表現の場を提供し、さらなるステータスを手に入れるための理想的なツールとなっているのだ。
※勝木健太・著『「マウント消費」の経済学』(小学館新書)より一部抜粋・再構成。
【プロフィール】
勝木健太(かつき・けんた)/1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティングおよび監査法人トーマツを経て、経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に会社売却(M&A)し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。2年間の任期満了後、退任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028』(日経BP社)『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)、企画・プロデュース実績として『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)がある。