人の心に潜む“他者よりも優れた自分を演出したいという欲求”を巧みに引き出し、それを満たす体験(マウンティングエクスペリエンス)を提供することが顧客を惹きつける。最新刊『「マウント消費」の経済学』の著者で文筆家の勝木健太氏は、「欧米の企業はこの分野で日本企業の一歩先を行っている」と考える。
では具体的にどのような企業がマウンティングエクスペリエンスを活用し、成功を収めているのだろうか。一例としてここではテスラを紹介しよう――(以下、『「マウント消費」の経済学』より抜粋・再構成)。
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電気自動車メーカーのテスラは、もはや地球環境を守りながら未来を切り拓くライフスタイルを提案する最先端のブランドへと進化を遂げている。
その背後には、世界的な起業家であり資産家でもあるイーロン・マスクの揺るぎないビジョンが息づいている。彼の卓越したリーダーシップのもと、自動車メーカーとして世界最大規模の時価総額を誇り、革新の象徴として不動の地位を確立している。
従来の高級車が提供してきた価値は、利便性や経済的余裕の象徴にとどまっていた。しかし、テスラが提示するのは、それらの常識を根底から覆す新たな価値観である。
「環境に優しく、革新を追求する自分」というアイデンティティを所有者に対して付与することで、新たな次元のMX(マウンティングエクスペリエンス)を提供している。同じ高級車でありながら、ベンツやフェラーリが象徴する伝統的なステータスとは一線を画した環境意識と先進性を核に据え、所有者に対してより深いレベルの持続的な満足感をもたらしているのだ。
テスラのオーナーになることは、車の所有以上の意味を持つ選択である。それは、「環境に配慮し、未来を自ら選び取る自分」を体現する行為であり、環境問題への貢献と最先端テクノロジーの享受を両立させる、他にはない体験である。
この選択は、経済的余裕の証明にとどまらず、「未来を共に創造する一員である」という責任感と革新への参加意識を誇る行為でもある。「一度乗ってみたら価値観が変わるよ」と多くのオーナーが口を揃えるのは、この体験が従来の車では得られない満足感と深い感銘をもたらし、「未来への第一歩」を実感させるからに他ならない。