「ホームワイン」の魅力とは(写真はイメージ)
欧米企業を中心に、マウンティングエクスペリエンス(*人々の“他者よりも優れた自分を演出したい”という欲求を巧みに引き出し、それを満たす体験)の提供による顧客誘因の成功例が相次いでいる。
日本国内でも、マウンティングエクスペリエンスを軸に据えたビジネスを通じて大きな成果を上げる企業が出てきた。ここでは東京・八王子に本社を置くWINE TRAILが“自宅に届くワインスクール”と銘打って提供するサブスクサービス「ホームワイン」の事例を紹介しよう――(以下、勝木健太・著『「マウント消費」の経済学』より抜粋・再構成)。
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ワインは、多くの人にとってハードルの高い存在である。フランス産とイタリア産の違いを語ったり、ブドウの品種について議論したりする場面で、「実は詳しくない」と打ち明けるのはどこか気まずさを伴う。それは、ワインが嗜好品としてだけではなく、知識や教養の象徴として位置づけられているからに他ならない。
こうした「ワインの壁」を取り払うべく登場したのが、自宅に届くワインサブスクの「ホームワイン」である。このサービスでは、月に一度、何百万種類のワインから厳選された商品が自宅に届けられる。それには産地やブドウ品種、歴史に関する丁寧な解説が添えられており、まるで「ワインの家庭教師」が付いた定期便のようだ。
これによって、ユーザーはワインを楽しむ過程で自然と知識を深めることができる。次のワインパーティーでは、「このボルドーはカベルネ・ソーヴィニヨン主体で……」といった具合に、さりげない蘊蓄を披露する準備も整うというわけだ。
しかし、「ホームワイン」の真価は知識の提供にとどまらない。それ以上に、「自分は他者とは違う、ワインに詳しい」という優越感を味わえる体験にこそある。銘柄や特徴を会話の中にそれとなく織り交ぜることによって、「ワイン通」として認められたような気分を得ることができる。