トランプ大統領を説得するための鍵とは
日鉄はすでに2兆4000億円にも上る資金を投じるスキームを提示しているが、ここにきて「全く異なる大胆な提案」(林芳正官房長官)を検討しているとされる。どのような“ウルトラC”があるのか。
EVやHEVのモーターに不可欠の電磁鋼板の分野などで、日鉄は世界最高峰の品質を誇る。その技術力を注入すればUSスチールはおろか供給先の米国の自動車産業の競争力を高め、ラストベルトの雇用に直結し得る。そうした点をどう伝えるかが、トランプ氏説得の成否を握るはずだ。
一方、それは米国の“忘れられた人々”への救いであり、人口減少の日本の地方を直接に救うことにはつながらない。昨年11月の単独インタビューでその疑問を問うた際、橋本氏は、「グローバルで成長し、その利益で全国の工場に投資をする、ということです」と答え、こう続けた。
「内需だけ見れば今のキャパシティの半分でも足りる。しかし成長と分配の好循環を考えるなら、日本の研究開発に投じ、脱炭素をリードする商品力を高めるしかない。それができなければ日本が潰れます」
日鉄は現在、コークスよりもはるかに脱炭素の面で優れた水素製鉄の開発に巨額を投じている。ここでライバルの中国に後れを取れば、すでに世界の生産の5割を占める中国が支配権を強めるのは間違いない。問題意識を共有し、歪んだ枠組みの押し付けにはノーと突き返せるか。トランプ2.0に臨む日本の先行モデルになる。
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【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、フリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。著書に『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号