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快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた

《ミスター・ヘルメットマン》アイルトン・セナに信頼された日本人デザイナー・川崎和寛氏が振り返る“F1王者の装備を手掛ける緊張感”とセナの心を動かした“誠実な対応”

1990年のF1第1戦、アメリカグランプリで「RHEOS」ブランドのヘルメットを初めて着用したアイルトン・セナ(時事通信フォト)

1990年のF1第1戦、アメリカグランプリで「RHEOS」ブランドのヘルメットを初めて着用したアイルトン・セナ(時事通信フォト)

 1980年代後半、日本は空前のF1ブームの中にあった。ドライバーたちは、普段モータースポーツとは無縁のような人たちからも、まさにアイドル的な存在として扱われた。その中心にいたのが、F1世界選手権で3度の優勝を果たした孤高の天才ドライバー、アイルトン・セナだ。その絶頂期にある人気ドライバーのヘルメット制作を、1989年オフから91年まで担当したのが、ホンダの2輪や4輪、そして用品デザインなどを手掛けていた川崎和寛氏(※崎は「たつさき」が正式表記)。後にセナ本人から全幅の信頼を得て「ミスター・ヘルメットマン」と呼ばれた日本人デザイナーだ。

 残念ながらセナは1994年の5月1日、イタリアのイモラ・サーキットで行われたF1サンマリノGPのレース中、事故で還らぬ人となった。それから30年を経て、 “ヘルメットマン”は何を思うのか──。自動車ライターの佐藤篤司氏のシリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」、昨年、川崎和寛氏から聞いた、セナとの出会いやヘルメットの開発秘話をレポートする。《前後編の前編》

バイク用品のデザイナーがF1の世界へ

「セナのヘルメットについて相談がある。とりあえずフィッティングなどの準備をしてセナが滞在しているホテルに向かってくれないか」──。1989年の日本グランプリが終了した直後、そんな依頼の電話がホンダの純正用品を開発、生産、そして販売する「ホンダアクセス」に入りました。依頼主はホンダF1が強さを見せていた当時、プロジェクトリーダーを務めた後藤治監督でした。

「会社側は『いったい何があったんだろう』といった思いながら、後藤監督に詳細を聞きました。話によれば『セナは今年(1989年)のレース序盤から、ヘルメットが重く違和感があり、何とかしたい』と言っていたそうです。そこで後藤さんは『ホンダには用品を作っている関連会社(ホンダアクセス)がある。そこで君に合った軽いヘルメットを作ってもらうから、かぶるか?』と聞くと、『もちろん気に入れば、かぶる』という返事をもらったそうです」と話す川崎さんの運命は、ここから急転する。

「ホンダには2輪もあり、純正のヘルメットを開発して販売していて、以前から担当をしていたのが私でした。そこで『ヘルメットなら川崎だなぁ』と言うことになり、私が担当することになったのです」(川崎さん・以下同)

 実は川崎さん、バイクのデザイナーを務めながら、トライアルバイクで道なき道を走るトライアル競技の「MFJトライアル国際A級ライセンス」を取得し、全日本ランキングでは8位に入賞するほどの腕前。そして1977年からは、ホンダアクセスでヘルメットを始めとした2輪用品の開発に従事していたのです。その実績があっての指名でした。

「準備を整え、フィッティングのためにセナのホテルを訪ねました。彼はシャワーを浴びたばかりの、リラックスした様子で私たちを部屋に迎え入れてくれたのです。さっそく頭部の外周を始め、各部のサイズを計測し、本人の希望などを聞き取っていきました。最優先課題は軽量化でした。それまでのヘルメットは1800g(ヘルメット本体)+150g(無線装置の重さ)という重量をいかに減らすか、です。さらに額から流れ落ちる汗、熱気と蒸れで曇る視界の解消も考えなければいけません。そしてオリジナリティへの強い要望なども含め、色々な希望を聞いたところで、最善のヘルメットを作ることを約束して、会社に戻りました」

 時間はなかったのです。この年の12月、ポルトガルの「エストリル・サーキット」で行われるテストまでに、セナの要望を可能な限り採り入れたヘルメットを「仕上げなければいけない」といった状況でした。もちろん川崎さんには、これまでヘルメットをデザインし、数々の実績を残してきたという「自負があった」そうです。一方でF1というモータースポーツの頂点で、チャンピオン争いを展開している男のヘルメットを作るという「初めての緊張感と責任感を味わっていました」。

「緊張感は自然に高まっていきました」

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