「食」で結びついた“ムショ仲間”(「喜連川社会復帰促進センター」を取材する “オバ記者”こと野原広子さん。撮影/浅野剛)
大半の人にとって一生無縁であるはずの刑務所。体験取材を得意とする女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんには、刑務所取材をきっかけに“ムショ仲間”が増え始めたという。オバ記者が綴る“ムショの現実”とは。【前後編の前編】
1日3回の食事が「ありえないこと」と考えていた少年院の若者
2年半前、「喜連川社会復帰促進センター」を取材した。同センターは栃木県さくら市喜連川にある刑務所で、犯罪傾向の進んでいない受刑者(初犯者)が多く収容されているところ。この取材を機に私の周りには“ムショ仲間”が増え始めた。
そもそものきっかけは、衆議院議員会館でのアルバイトだ。そこで元刑務官の法務官僚と知り合い、塀の中の話を聞く機会に恵まれた。少年院の若者が彼に、「毎日3食ご飯を食べるなんて、テレビドラマの中の話だと思っていました」と言ったという。おいしい・まずいではない。その若者は、1日3回の食事が「ありえないこと」だと考えていたのだという。そんな若者がいることにショックを受けた。でもよく考えたら、“食卓の当たり前”って、ありそうでないんだよね。
30代初めの夫婦の離婚相談にのったことがある。夫は言う。
「食の不一致ですよ。妻は専業主婦なのに、夕飯にとうもろこしを1本とか。『え?』と驚いたら、『足りない?』ってもう1本出してきました。ハンバーガーショップの新商品をドヤ顔で出してきたり、コンビニ弁当がドンとか……」
と、嘆き出したら止まらない。一方の妻に聞いてみると、「男が食べ物のことをくどくど言うなんて信じられない」とふくれている。「私は食べ物に興味がない」とも言っていたっけ。そんなものだろうか?
洋服に興味がない。美容に関心がない。家は雨風をしのげればいい。各人、興味が向かないことはそれぞれあるだろうけど、でも食はもっと根源的なことで、「興味がない」では済ませられないんじゃないか。