元マイクロソフトCEOで、NBAのロサンゼルス・クリッパーズオーナーでもあるスティーブン・ヴァルマー氏(Getty Images)
2001年のドットコムバブル崩壊時にAmazon株を手放した失敗から、「有望企業は何があっても長期保有する」という教訓を得たという元マイクロソフトの“伝説のプログラマー”で投資家の中島聡氏。NVIDIAをいち早く見出したことでも知られる中島氏は、将来大きな成長が見込めると確信できる企業の株であれば、短期的な株価の上下動に一喜一憂せず、「ガチホ」(ガチでホールド)することが欠かせない視点なのだと説く。長期保有の底知れぬ威力について、中島氏の著書『メタトレンド投資 10倍株・100倍株の見つけ方』(徳間書店)から再構成して紹介する。【前後編の後編】
■前編記事:「リーマン・ショックも実質ノーダメージで乗り切った」エヌビディア株をいち早く見出した投資家・中島聡氏が説くガチホの重要性 長期保有のために「メタトレンド+推し」という2つの軸で構えよう
長期保有の底知れぬ威力
Microsoft の創業者ビル・ゲイツ氏は、長年にわたり世界屈指の大富豪としてその名を馳せてきました。しかし近年、ブルームバーグの富豪番付において、かつての部下がゲイツ氏の資産額が上回るという事態が発生しました。
その人物こそが、ゲイツ氏の後任としてMicrosoft のCEOを務めたスティーブ・バルマー氏です。
イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏など、ブルームバーグが発表した長者番付のランキング上位にはみずから会社を興し、一代で巨万の富を築き上げた創業経営者が名を連ねています。そのなかでバルマー氏のような“雇われCEO(サラリーマン社長)”が名を連ねるのはきわめて異例と言えるでしょう。
その最大の要因こそ、Microsoft 株の「長期保有」にあります。
バルマー氏がCEOを務めていた期間、Microsoft の株価は長期にわたって低迷し、投資家やアナリストから厳しい批判を浴び続けていました。その間、ゲイツ氏は慈善事業などに充てる資金を捻出するため、保有するMicrosoft 株を徐々に売却していきました。
しかしバルマー氏はCEO在任中はもちろん、退任後も自身が保有するMicrosoft 株を売却することなく保有し続けたのです。そしてバルマー氏がCEOを退任したあと、後任のサティア・ナデラ氏のもとで、Microsoft の株価は目覚ましい急上昇を遂げました。クラウドサービス「Azure(アジュール)」の飛躍的な成長や、ビジネスモデルの転換などが功を奏し、Microsoft は再び力強い成長軌道に乗ったのです。「バルマーが辞めたおかげで、株価が上がった」と揶揄する声が一部で聞かれたほどでした。
そして皮肉なことにこの株価上昇の恩恵を最も享受したのが、ほかならぬバルマー氏だったのです。
このエピソードは「株の長期保有が株価急騰の恩恵を最大限に享受するうえで、いかに有効な手段であるか」を如実に物語っています。長期保有によってサラリーマンCEOが創業者の保有資産を上回ってしまう。これほどまでに「長期投資の真骨頂」を体現した劇的な出来事はないでしょう。