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ビジネス
楽天・三木谷浩史社長が明かした「次なる野心」

【楽天・三木谷浩史社長独占インタビュー】AI開発における米中巨大テックへの勝ち筋「AIがコモディティ化した時、楽天経済圏の様々なデータが最後に違いを生む」

楽天・三木谷浩史社長が見据える携帯事業の“次”とは(時事通信フォト)

楽天・三木谷浩史社長が見据える携帯事業の“次”とは(時事通信フォト)

 楽天グループの2024年通期決算は5年ぶりに営業黒字を達成、危機説のあった楽天モバイルの収益改善が大きかったという。専用機器(ハード)に依存せず、通信機能の大半をソフトウエアで処理する「完全仮想化」を実現した楽天モバイルのネットワークは、特定のベンダーに依存しないオープン・アーキテクチャーで構築されている。携帯電話の世界でこれを「Open RAN(O-RAN:オーラン)」と呼び、楽天モバイルが世界の先頭を走る。

 野心の尽きない三木谷浩史社長は、すでに携帯事業の“次”を見据えているという。ジャーナリストの大西康之氏が携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」が開催されたスペイン・バルセロナで独占インタビューを敢行した。【全3回の第3回】

O-RANは楽天にしかできないチャレンジ

──楽天モバイルが世界に先駆けてO-RANを商用化できたのはなぜか。

「この手の技術は赤ちゃんが歩き方を覚えるのに似ています。何度も転んで、時には膝小僧を擦りむきながら、正しいやり方を見つけていくので、減点法が染み付いている大企業がチャレンジするのはなかなか難しい。

 コストやスピードの問題もあるでしょう。日本の大手3社を含め、世界の通信大手は1万人を超える開発要員を抱えていますが、楽天モバイルでO-RANをやっているのは800人です。固定費と意思決定のスピードがまったく違う。

 一方で携帯電話のビジネスは全国に5万基、6万基といった数の基地局を建てなくてはいけないし、O-RANは様々なメーカーの機器に対応しなければなりませんが、国ごとに周波数帯域や仕様が違ったりと、検証作業にもかなりの手間がかかるのである程度の体力は必要です。スタートアップの体力では対応できない。それなりの企業規模があり、なおかつ失敗しながら成長するメンタリティーを持つ楽天にしかできないチャレンジだったのかもしれません」

──O-RANは本当に普及しますか?

「大手の通信機器メーカーは、プロプライエタリ((排他的・占有的構造)のシステムを入札する時には安い値段を出してくるのですが、受注が決まってシステムを構築し始めるとどんどん値段が高くなる。メンテナンスにも膨大なコストがかかります。一度、顧客を掴んだらロック・イン(固定化)して、既得権益になってしまう。

 しかもこれまでのやり方では、4Gから5Gへ、5Gから6Gへと規格が変わるたびに専用機器を買い替えなくてはいけない。設備投資の負担が重すぎて、世界の通信会社はみな『このままでは事業を続けられなくなる』と危機感を強めています。

 楽天のO-RANは14社のベンダーを採用しています。彼らが競い合うことで設備投資は従来型に比べて4割削減することができました。メンテナンスなどネットワークの運用コストも3割下がっています。コンピューターの主流がメーンフレームからパソコンに移行した時と同じことが起きているわけです。

 世界の通信会社はこの実績を興味津々で見つめている。経営が厳しくなる前に何とかプロプライエタリからO-RANに移ることを模索しています。一気にすべてをO-RANにするのは難しくても、部分的にできるところから始めていこうというのが現状です。

 今回、(米通信機器最大手の)シスコシステムズ、(米通信機器・ソフトプロバイダーの)エアスパン・ネットワーク、(インド通信機器最大手の)テックマヒンドラが楽天シンフォニーと提携し、楽天モバイルで実証済みのO-RANシステムを世界中で販売してくれることになりました。O-RANについては雪崩が起きつつあるか、すでに起き始めている状況で、その先頭に楽天モバイルが立っているのは間違いないと思います」

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