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歳を重ねて変化する“故郷への思い” 60代オバ記者は母を見送ってから「愛着と背中合わせの憎悪の感情が消えて、ほっこりした気持ちだけが残っている」

“オバ記者”こと野原広子さんが故郷への思いを綴る

“オバ記者”こと野原広子さんが故郷への思いを綴る

 新生活が始まるこの季節。故郷から出たくて上京した人もいれば、上京したけど早くも故郷が恋しくなっているという人もいるのでは? 故郷というものに抱く気持ちは人それぞれだが、年齢を重ねることで変化することもあるという。体験取材を得意とする女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんが、故郷での思い出について綴る。

母親を見送ってから、生まれ育った町が日に日に遠くなった

 私の生家がある茨城県桜川市真壁町では、毎年2月4日から3月3日まで町をあげて「真壁のひなまつり」を開催して大賑わいになる。2月に桜川市が『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)で大々的に取り上げられたので、いつも以上の人出だったと地元の友達はうれしそうだ。テレビには見知った人がたくさん出ていたので、そのたびに私も画面に手を振っちゃった。

 ひな祭りからしばらくたつと春本番。山々に「山桜」が咲き誇る番だ。

 でも、なんかヘンなの。2年前の春に母親を見送ってから、なんなんだろうね、生まれ育った町が日に日に遠くなっていたんだわ。どこか他人行儀というのか、もっと言えば、強い愛着と背中合わせの憎悪の感情が消えて、ほっこりした気持ちだけが残ってる。思えば、こういう気持ちになったことがないの。ほら、室生犀星の歌にもあるじゃない? 「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの よしや うらぶれて異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや」と。

 たとえば帰省していたある夜、酔ってからんでくる年子の弟から「てめえ、もう家になんか入れてやんねーかん、帰れ、帰れ」と言われて、「ああ、帰るわ。今度来るときは町内の旅館に泊まっから覚えてやがれ! 母ちゃん、タクシー呼んでくれ!!」と怒鳴り返したことがある。わが町から東京の日本橋まで約100km。実際に利用したことはないけど、聞くところによると深夜タクシーで4万円前後するという。薄い財布を意地で膨らませる私。で、そんなときに、自分でタクシー会社を探せとばかり、ポンと電話帳を投げてよこすのが母親だ。逆に義父は、「もう遅いから明日にしろな。タクシー代、バカになんねーべよ」とおろおろと止めに入る。その義父も私の高校進学を「女に学はいらねえ」と阻んでいる。

 ゴタツキは家の中だけじゃない。なにせ小学校時代の私のあだ名は「ぶた」で、いまでも私を「ぶーこ」と呼ぶ同級生がいる。もっとも、クラス会で会うとその同級生が「結局、ぶーこがいちばんの出世頭かもな」と言ってくれるんだけどね。

 そんなわけで、18才まで過ごした故郷にはいつも愛憎入り混じった気持ちが交差していて、東京での暮らしにつまずくたびに故郷を思い、「帰るところにあるまじや」と反発し、それが心の支えになっていたわけよ。

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