さらに『週刊文春』6月6日号では、大手食品メーカー・ミツカンの「酸っぱいお家騒動」が取り上げられた。グループ会長である中埜家の娘婿が、孫が生まれた途端に「孫を私の養子にする」と迫られ、会社からも退職するよう勧告されたことを「パワーハラスメント」だと告発したのだ。
このように、創業家が騒動の中心にいる企業が少なくないのはなぜだろうか。一方で、トヨタ自動車やサントリーホールディングス、セブン&アイ・ホールディングス、ブリヂストン……。令和の日本を支える錚々たる顔ぶれに、創業家が君臨する企業は多い。これらの企業が創業家を頭上に戴きながら成長し続けられるのはなぜだろうか。
ミツカンの創業家は、ソニーを興した盛田昭夫氏の実家である造り酒屋と江戸時代から縁戚関係にある。LIXILのお家騒動で注目された旧INAX創業家の伊奈家はトヨタ自動車の豊田家と縁戚にある。何が創業家をめぐる企業の繁栄と衰退を分けるのか。
「会社はトイレットペーパーの切れ端までオレのもの」と言いながら自社を上場に導いたオーナー社長もいれば、「倒産しそうな時に多くの人に助けてもらった経緯から、上場した時点で会社は自分のものという意識を捨てた」という創業社長もいる。どちらか一方が正解ということではないのかもしれない。
強力なリーダーシップを発揮して求心力で組織をまとめ、権限を委譲すべきところでは「やってみなはれ」と部下に任せて遠心力を成長の力に変える。求心力と遠心力のバランスは会社ごとに異なるだろうし、その会社が置かれている局面によっても最適解の在りかは常に変わる。
そんな最適解を探り当てられるのは、自分の血や肉を分けるようにして会社を作った創業家だけかもしれない。それこそが創業家の強みである。そしてそれが困難になったならば、経営者を取り換え、企業を存続させる冷徹なシステムが企業統治なのだ。創業家であっても経営から追われるシステムの構築こそ、今の時代に必要なのかもしれない。
●リポート/山口義正(ジャーナリスト):1967年生まれ。愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。オリンパスの巨額粉飾事件をスクープし、著書『ザ・粉飾 暗闘オリンパス事件』(講談社+α文庫)にまとめた。
※週刊ポスト2019年6月14日号