「一番ダメなのは、注意したり、怒ったり、たしなめたり、話し合おうとしたりすることです。父がやっていることは、理屈としては正しいので、議論で勝とうとしても意味がない。『何でそういうことをするわけ?』と言っても、『だってこういうルールだろ? オレが正しいんだ!』と言いたくてしょうがないわけですから、議論すれば相手の思うツボです。とにかく一切興味を示さず、スルーするのが正解。まったく何もなかったように別の話を始めてしまうのも良いでしょう」
繰り返しになるが、理があるのは相手なのだから、正論おじさんと真っ向から戦って勝つのは難しい。ただ、父が亡くなって数年が経ち、今回の正論おじさんのニュースを見るうちに、Tさんは責任の一端が自分にもあったと考えるようになったという。
「戦前生まれの父は難関大学を卒業していて、会社での地位も高かったので、自分がエリートだという意識があったのでしょう。しかしプライドの高さゆえ、周囲からは疎まれて誰にも相手にされず溜まった鬱屈を、クレームをつけることで吐き出していたのだと思います。晩年に初孫が生まれ、孫の成長という楽しみができると“クレーム癖”もなくなりましたから、もう少し私が寄り添えば良かったのかもしれません」
ただし、それはあくまでも身内だからできること。もし万が一、「正論おじさん」に出くわしてしまったら、ひたすら無視するか、自分が悪かったと観念して謝るかの二択が、被害を最小限に抑える方法なのかもしれない。