“選択のパラドックス”には注意を
これらに加えて、定期的にキャンペーンを打ち出すメルペイや d払いも控えている。「キャッシュレス・ポイント還元事業」に伴うサービスの詳細こそ明らかになってはいないが、何かしらのキャンペーンを打ち出すことは想像に難しくない。利得性という観点から見ても、コード決済を利用するメリットは多分にあるだろう。
一方で、“選択のパラドックス”という言葉がある。選択肢がないことは不幸だ。そのため増えることは歓迎すべきことだが、増えすぎると再び不幸になってしまう――。電力自由化のときもそうだったが、選択肢が多すぎるとかえって二の足を踏み、結果、何もしない(できない)という選択をしてしまう。急速にキャッシュレス熱が高まるあまり、ついていけなかったり、「何が一番お得なの?」と考え過ぎてしまう人は少なくない。
「難しく考えなくていい」。それが筆者の答えだ。いたるところで電子決済が行えるようになりつつある今、かつての陸マイラーのようにマイルやポイント獲得のためにお得になる店舗を奔走し、「よっしゃ~ッ! お得にマイルゲット! 次の土日は倍になるからあそこまで遠出して買い物しよっかな!」なんて労力を費やす必要はない。
日常の買い物を、公共料金の支払いを電子決済にするだけで、それなりに貯まる時代が到来したのだ。躍起になって貯めなくても、普通に暮らしていれば貯まる。だからこそ、今現在自分が使っていて最もしっくりくる決済サービスを使えばいい。最も興味のあるものを、まずは選んでみればいい。ストレスを感じないことがポイントだ。
QRコード決済各事業者について「競合ではなく、キャッシュレスを浸透させていく共闘する存在」とは、前出・長福COOの言葉だ。たしかに各社激しいキャンペーン合戦を繰り広げているが、キャッシュレスの利点は利得性だけで終わらない。長福COOは次のように語った。
「ポイントやボーナス目的でコード決済を導入した人が、使い続けていく先に『なんで今まで現金で支払っていたのだろう?』と気が付く瞬間がある。そのとき、はじめてどのサービスが自分に向いているのか考えてもらえたらいいですね。キャッシュレスには、現金とは異なるライフスタイルやオペレーションがあります。『キャッシュレス・ポイント還元事業』が終了したとき、そういう議論が盛り上がっていると、我々もうれしいです」
友人や同僚とコミュニケーションを取りながら送金も行えるLINE Pay、ポイントを追求したいのであれば楽天ペイ、メルカリのハードユーザーであればメルペイというように、キャッシュレスは現金では得られないユーザーエクスペリエンス(UX)を提供できることも大きな魅力となる。
会計やレジ締めなどは、人のリソースを割いてしまうため、人手不足に悩む外食産業にとって悩みの種となっている。キャッシュレスが浸透すれば、人的リソースの効率化など、さまざまな場面に変化をもたらすことが予想される。「キャッシュレス・ポイント還元事業」が、どこまで利用者の意識を変えるかも、大きな見どころだろう。
経産省は対象店舗を検索するためのマップ(https://map.cashless.go.jp/search)も公開している。店舗のカテゴリー、2%なのか5%なのかが分かる還元率、電子決済手段別に検索がかけられるので、ご覧いただくと分かりやすいだろう。このマップを見るだけで、どういった業種が対象となり、自分の生活範囲においてどの店舗が還元対象なのかが一目瞭然だ。眺めているだけでも、「ここは対象内なのか」という具合に、なかなか面白いものがある。“おトク”であることも大事だが、“おトクの先にあるもの”も見据えて、「キャッシュレス・ポイント還元事業」期間を体験してみてはどうだろう。
◆文/我妻弘崇(ライター)