2020年は40年ぶりの相続改正が完全実施される節目の年になる。資産をどう家族に引き継がせるかのルール変更だ。一番変わるのは遺言制度。7月10日から本人が作成した「自筆証書遺言」を法務局に保管してもらえる制度が施行される。
遺産の分配は故人の遺志が最優先され、「遺言書」があれば相続人による遺産分割協議は必要ない。しかし、思わぬトラブルを招くことも珍しくない。問題は遺言書の保管場所だ。公証人が保管してくれる「公正証書遺言」と違って、自筆証書遺言は保管場所が定められていない。
相続をめぐるトラブルで多いのは兄弟間で遺産分割協議が終わった後、親の遺言書が見つかるケースだ。せっかくまとまった話し合いが、遺言書の内容次第ではこじれることもある。何より、自筆遺言が見つかると取り扱いと相続手続きがとても面倒になる。
法律上、自筆遺言書の保管者(発見者)は、遺言書の実物と遺言者(故人)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本を全部揃えて家庭裁判所に申し立て、裁判官の「検認」を受けなければならない。偽造を防止するためだ。
家裁は相続人全員に遺言書の検認の申し立てがあったことと検認を行なう日付を通知し、遺言書が封印されていた場合は、家裁で相続人の立ち会いの元で開封し、裁判官が本人の自筆かどうか、印鑑は本物かを相続人に確認する。
検認の申し立てから完了まで1か月以上かかるのが普通だ。この検認を経て「遺言書」が法的に認められる。
故人の口座から預金を引き出す場合も、家裁の「検認済み証明書」付きの遺言書と必要書類を提出しなければならないケースが多い。
新制度はその手間と時間を一挙に解決してくれる。遺言者本人が事前に作成した自筆遺言書と添付書面を法務局(遺言書保管所)に持参して保管申請すれば、法務局は遺言書を画像データ化して実物を保管する。
本人は何度でも書き換えることができるし、亡くなった後は、相続人が申請すれば有料(手数料未定)で画像データの閲覧や写し(遺言書情報証明書)の交付を受けることができる。相続人の1人が遺言書を閲覧した時点で、他の相続人全員に遺言書を保管していることを通知してくれる。