申告できる医療費は、Aさんのように大病にかかった治療費に限らない。元国税調査官で税務コンサルタントの大村大次郎氏が指摘する。
「入院費や手術費はもちろん、通院や入院のための公共機関の交通費やタクシー代まで医療費に含まれます。医薬品は『治療目的』なら、ドラッグストアで購入した解熱剤や風邪薬、包帯や絆創膏、消毒薬から湿布まで幅広く医療費になる。『予防』のために買った薬は認められませんが、治療目的か予防目的かを判別するのが難しい場合は、明らかに非常識な判断でない限り、原則として本人の申告が認められます」
歯科治療では虫歯の治療や仮歯代はもちろん、インプラントや未成年の歯科矯正が含まれ、生活習慣病治療のためのスポーツジム利用や温泉療養費も治療に含まれる。ほかにも国家資格を持つ施術師による鍼や灸、あんまマッサージ、視力回復のためのレーシック手術やAGA(男性型脱毛症)治療まで控除の対象だ。
都内で年金生活を送る68歳のBさんはこう振り返る。
「一昨年のことですが、耳の聞こえが悪くなって耳鼻咽喉科にかかったところ、難聴と診断されました。40万円かけて両耳の補聴器を購入したので、“認められれば儲けもの”と思って申告したところ、1万円ほどの還付が受けられました」
給与収入があり、もともとの納税額の多い現役世代であれば、医療費控除によって受けられる恩恵はより大きい。さらに、離れて暮らす老親や子供の分もまとめて申告できるケースがあることも見逃せない。税理士の犬山忠宏氏が解説する。
「40~50代の会社員が、介護の必要となった親の生活費などを支払っているケースは珍しくありません。生活費を負担する財布が同じならば、『生計を一にする家族』と認められ、遠方で暮らす親であっても、医療費をまとめて申告できます。その場合、必ずしも扶養内であったり、同居している必要はありません。
たとえば年収800万円の50代会社員が、認知症の悪化した80代の父親を専門病院に入院させ、その医療費やオムツ代など、年間100万円を負担したケースを想定すると、父親の医療費を息子が申告して、約11万円の還付が受けられることになります」