介護が必要になっても困らないように、ケア体制が整った「老人ホーム」を“終の棲家”に選ぶ人は多い。しかし、入居する施設が見つかったから死ぬまで安心とは限らないのが「認知症」を発症したケースだ。
老人ホームと契約し、入居後に認知症を発症したり、症状が進行した場合、施設側が面倒を見切れず、退去を迫られる事例は少なくない。
都内在住の男性(51)は、3年前に離れて暮らす父親(81)を地元・北関東の老人ホームに預けた。食事や洗濯などの「生活支援」に加え、施設内に排泄や入浴介助やリハビリなどのサービス体制が整っている「介護付有料老人ホーム」だ。要介護の入居者3人に対して1人以上の介護・看護スタッフが付くことが義務づけられている。男性が言う。
「母親が先に亡くなって、父が男独り暮らしになってしまったので、万が一のことがあっても安心だと思って入れたのですが、1年ほど前に認知症の症状が出始めたと施設から連絡があった。隣の部屋に入って他の入居者とトラブルを起こしたり、夜中に歌ったり騒いだりするという。施設から『スタッフに怒鳴りつけることも増えてきたので、うちでは面倒を見切れない』と迫られ、入居から2年で退去しました。入居一時金として払った500万円のうち、半分くらいしか戻ってきませんでした」
介護スタッフ常駐の義務づけがなく、生活支援だけを行なう「住宅型有料老人ホーム」でも同様の問題は起こりうる。住宅型ホームに母親(83)を預けた首都圏在住の男性(59)がいう。
「実家の母のことが不安で、関西の住宅型ホームに入れましたが、比較的、自由に外出ができる環境だったため、ある日『外出したお母様が戻っていないようです』と連絡を受けました。いわゆる『徘徊』だったようで、近所のスーパーに出かけた帰りに、道が分からなくなったそうです。『施設として責任は持てないから退去いただく』と言われてしまった。『次の施設が見つかるまで待ってほしい』となんとかお願いしている状態で、途方に暮れています」