東京郊外のニュータウンで妻と2人暮らしのAさん(64)は、同じ時期に家を買った隣家のBさん(63)とは同世代で家族ぐるみの付き合いだが、定年後、違う働き方を選んだ。
Aさんは雇用延長で会社に残り、給料は半分ほどに減った。それに対してBさんは定年後、営業コンサルタントとして独立し、「収入は現役時代とほとんど変わらない」と自慢話を聞かされてきた。
ところが、新型コロナの感染拡大で状況は一変。現在、Aさんはテレワークとなっているが、給料は今まで通り出る。それに比べて、Bさんはコンサル契約を全部打ち切られて仕事を失った。自営業で失業保険もおりないため、100万円の「持続化給付金」を申請中だ。緊急事態宣言が解除されても、当面、再契約は見込めないというのだ。
雇用環境が悪化している時には、収入面でも正社員が有利だ。会社員のまま雇用延長する働き方と、脱サラして自営業になる働き方では“セーフティネット”に大きな差がある。
まずは定年後、雇用延長や再雇用で給料が75%未満に下がった場合、会社員には「高年齢雇用継続基本給付金」という国の給料補填制度がある。60~64歳までの最長5年間、新給料の最大15%が国(ハローワーク)から直接、自分の口座に振り込まれる。
定年後に月給が47万円から28万円に下がったケースで計算すると、同給付金は月額4万2000円で、5年間受給すると総額252万円になる。
もし、リストラなどで職を失っても、会社員は失業給付がある。勤続(雇用保険加入期間)20年以上の会社員(60~64歳)が雇用延長期間の途中で解雇された場合、1日最高6741円の失業手当を最長240日間もらえる。脱サラして自営業になるとこうした給付は受けられない。
それに加え、コロナ後にテレワークが普及すると、雇用延長で「働く環境」も好転する。
サラリーマンが定年後も会社に残る際、大きなネックとなるのが社内での立場の変化だ。それまで指導してきた元部下が上司となり、部署で孤立気味になって社員食堂でも“ひとり飯”。精神的に参って雇用延長しても短期間で退職するケースは珍しくない。