Aさん自身も3人兄弟で、兄の“お下がり”の部屋を使った経験の持ち主。その目論見通り、長男はこの春、現役で大学に進んだが、そこに降って湧いたのがコロナ騒動だ。
「とにかく家から出られない。長男は部屋を譲る気なんてありませんし、自分の部屋ができると思っていた末っ子は『約束が違う』とゴネて、毎日のように兄弟喧嘩です。今後のコロナの状況もどうなるかも分からないので、引っ越しを検討し始めましたが、こんなに難しいとは思いませんでした」
A家は共働き家庭。妻とは生活時間帯がズレているため、「どうせ引っ越すなら、妻にも部屋を」と考え、5部屋以上ある家を探したが、そんな物件は都内にほとんど無かったという。
試しに不動産情報サイト「SUUMO」で、23区内の新築マンションを検索すると、5部屋以上ある物件はゼロ。新築一戸建ては9000件近くヒットするが、5部屋以上ある物件は約1%、93件しかない(6月17日時点)。賃貸物件は70万件以上ヒットするが、5部屋以上ある物件はわずか700件弱だ。
そもそも23区内で家族5人が全員個室を持つのはかなり贅沢だが、Aさんは超一流企業に勤めており、収入は同年代の平均をかなり上回る。妻も働いており、経済的にはいくらか余裕があるが、希望に合致する家が無いのだ。自分の仕事、妻の仕事、子供の学校、子供の習い事……色々なことを考えると、そう遠くにも引っ越せない。かくしてたどり着いた結論は、次のようなものだった。
「4LDKの物件ならいくらでも見つかりますが、1部屋増やすために引っ越しするのはバカらしいので、選択肢から排除。5LDKは、築年数がかなり経っているものか、数億円するような物件しか見つからず、結局長男を近所に一人暮らしさせることにしました。本人は『ご飯は家(実家)で食べるから』と言っていますが、1つ屋根の下で暮らせないのは寂しいですね」
5部屋以上の物件があまり無い理由は「ニーズが無いから」という一点だろう。
都内在住と子だくさんを両立させるのは難しい現実があるようだ。