Aさんは、「どうせ会見当日の連絡は、事前に案内している我が社の社員の携帯電話に寄せられるのだから、固定電話をいっそのことやめて、すべて携帯電話対応にすればいいのでは?」と考えた。
コロナ禍により会社の売り上げが減少し、狭いオフィスへの移転も余儀なくされ、固定電話も解約することで少しでも経費を削減しようと考えたのだ。社員には仕事用のスマホをすでに貸与しているため、「すべて会社貸与の携帯電話で対応すればいい」と思っていたのだが、社員の考えは違ったようだ。Aさんは若手社員から次のような反発を受けたという。
「固定電話があるからこそ、『11~19時まで対応』といったことを対外的に言えるんです。もしも私の会社携帯電話番号のみでしたら、何時に電話が来るか分かりません。その時に『20時25分から20時28分まで3分対応しました』ということで、いちいち残業代を出してもらえるのでしょうか? もちろん電話に限らず、時間外にメールが来ることもありますが、これは11~19時に対応するようにすればいい。
固定電話対応をメインにすることによって、キチンと対応できる時間を明示しているのです。正直、メール対応だって、11~19時以降は絶対にしたくありません。固定電話を維持してもらえれば、私は11~19時以外は対応しないで済むのです」
ネット上には「電話野郎」という言葉がある。電話は他人の時間を強制的に奪うツールである、という考え方から、「いきなり電話をかけてくる人は失礼」ということで、電話をかけてくる人のことを「電話野郎」と批判するものだ。特にメールやLINEでのコミュニケーションが当たり前となった若者を中心に、そうした考え方を持つ人がいる。
そんな若者たちにとっては固定電話そのものが不要のように思えるが、皮肉なことにいつでも電話をかけてくる「電話野郎」から自分のプライベートを守るためには、固定電話があったほうがいい、という考え方になっているようだ。