コロナ・ショックで企業の業績が甚大な打撃を受けるなか、鉄道会社も苦境に立たされている。業界1位の売上高を誇るJR東日本も例外ではない。同社は7月7日、新型コロナウイルス拡大前の利用客数に戻るのには時間がかかるとし、列車ダイヤの本数や運賃制度の見直しに向けた議論に着手する考えを明らかにした。その背景に何があるのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんが解説する。
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JR東日本は2019年度に約3兆20億円と、過去最高の年間売上高を記録した。人口比率の高い関東・東北・甲信越を中心に運営し、これまで比較的経営は「安定」と見られてきた同社だが、コロナの影響をもろに受け、外出自粛期間中の4月と5月は約2000億円の減収、自粛が解除された6月も約640億円の減収に陥っている。
コロナ感染者数が再び増加するなか、同社の深澤祐二社長は7日の会見で、訪日客の減少やリモートワークの拡大で企業が定期代の支給を廃止する動きが見られることに言及した。始発や終電の繰り下げ・繰り上げを検討するほか、ラッシュ時間帯の運賃を値上げするなど時間帯別に変動する運賃制度の可能性について触れた。会見の反響は大きく、「通勤ラッシュの緩和に役立つのでは」といった肯定的な報道もあったが、「あのJR東日本が値上げ」「数か月の減収で拙速に過ぎる」と否定的な見方を示すメディアが大半を占めた。
だが、経営面から考えると、同社の言い分にも一理ある。なぜなら、定期券の利用者が圧倒的に多い通勤ラッシュ時間帯は、人口比率の高い路線を運営する鉄道会社であるほど、最も儲からない“魔の時間”だからだ。JR中央線の例で見てみよう。例えば、大人が中野-新宿間(4.4km)を乗車した時の通常運賃は160円。1か月に20日間、1日に往復で2回利用した場合、運賃は6400円の計算になる。しかし、通勤定期券を買えば4940円で済み、運賃は約23%引きとなる。