これに対し、ラッシュ時間帯に対応した運行を提供するには多額の資金が必要となる。朝の通勤ラッシュ時の中央線快速は、中野駅から新宿駅までの片道だけで1時間当たり約8万6000人と、1日の利用者数である約36万4000人のうち、4分の1近くの人が利用する。これだけの数の利用者に対応するには電車を2分間隔で運行しなければならず、それに伴い、1両当たり約1億円の車両を多数揃えておかなくてはならない。現在、中央線快速向けに備えている車両の両数は702両にのぼる。
これら702両の車両の大半は日中のオフピーク時間帯には走っていない。国鉄時代の古い統計だが、中央線快速で日中使用されている車両の割合は全体の38%に過ぎず、残りの62%がラッシュ時だけに必要な車両であるというデータもある。この数字をもとに計算すると、全車両702両中、ラッシュ時に必要な車両は435両となり、単純計算でも車両費だけで約435億円(1両1億円で計算)が使われている計算だ。一方で、割安な定期運賃で売り上げは思うように伸びない。コロナ禍に伴う利用者の激減を背景に、JR東日本が時間帯別の運賃の導入を考えるのも理解できる話だ。
ちなみに東京メトロの場合、先の中央線の例と同条件で比較すると、通常運賃6800円に対し通勤定期代は6950円と、通常運賃よりも高い。仮にJR東日本が時間帯別運賃を導入するとすれば、ピーク時に利用できる定期運賃の割引率は東京メトロと同程度に合わせることから始める可能性もあるだろう。
【プロフィール】うめはら・じゅん/鉄道ジャーナリスト。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)入行。雑誌編集の道に転じ、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に独立。現在は書籍の執筆や雑誌・Webメディアへの寄稿、講演などを中心に活動し、行政・自治体が実施する調査協力なども精力的に行う。