日本には10万とも20万ともいわれる名字がある。その由来が広く知られているものも、本人さえ知らないものもある。『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)より、日本最多の名字である「佐藤さん」としのぎを削る多数派、「鈴木さん」のルーツと秘密を探ってみよう。
「鈴木さん」と言えば、芸能人なら鈴木京香、鈴木保奈美、鈴木奈々、鈴木福、スポーツ選手ならイチローこと鈴木一朗(元シアトル・マリナーズ)、鈴木亜久里(元F1レーサー)、政治家なら鈴木善幸、鈴木宗男……と、多数の著名人が頭に思い浮かぶことだろう。
実は、「佐藤さんとしのぎを削る」と言っても、地域によってはピンとこない人も多いはず。「鈴木さん」も「佐藤さん」も東日本に多い名字で、西日本では「山本さん」「田中さん」のほうが多数派だからだ。もちろん、それには理由がある。
「鈴木さん」のルーツは紀伊半島南端部の熊野にある。現在は和歌山県と三重県にまたがる地域だが、古代には熊野三山が朝廷の篤い信仰を受け、修験道の聖地だった。この地の神官たちが共通の名字として名乗ったのが「鈴木」である。
言葉の由来もはっきりしている。現在も日本中の水田で見られる光景だが、刈り取った稲は田んぼに重ねて乾燥させた。その積み方は地域によってさまざまな形があり、呼び方もさまざま。紀伊半島では、中心に長い心棒のある独特の形に積み上げ、これを「すすき」もしくは「すずき」と呼んだ。「鈴木さん」の語源である。
鎌倉時代に入って朝廷の力が衰えると、鈴木一族は東日本を中心に各地に出向いて熊野神社を建立し、信仰を広めた。そうして「鈴木さん」は広がっていったと考えられている。現在、熊野神社と、同じ由来を持つ十二社神社、十二所神社は全国に約3000社あるとされ、特に関東地方と中部地方には栄えた神社が多い。そうした地域には、今も「鈴木さん」が多く住んでいるというわけだ。
※『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)を元に再構成