「佐藤さん」「鈴木さん」に次いで、日本で3番目に多い名字が「高橋さん」である。芸能人なら高橋英樹、高橋真麻の親子や、高橋一生、高橋みなみ、高橋克典など、テレビで「高橋さん」を見ない日はない。スポーツ選手ならフィギュアスケートの高橋大輔、プロ野球の高橋由伸、文化人では漫画家の高橋留美子など、国民的スターが目白押しだ。
『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)より、「高橋さん」のルーツを探ってみよう。「高橋さん」の由来は、もちろん「高い橋」である。渓谷などに架けられた、ちょっと渡るのが怖い橋だったことだろう。日本の名字の多くは地名や地形に関する自然由来のものが多く、人間の手による建造物を取り入れたものは案外珍しい。ほかには「寺」「城」「館」などがよく使われる。
そのなかで堂々全国3位に輝く「高橋さん」には、もちろん日本各地で架けられた高い橋をルーツとしている多くの家系があったと考えられる。特に農村部では、簡単には作れない高い橋は目立つ存在だったはずだ。その近くに住んでいる、あるいは橋の建設に関わったなどの理由で「高橋さん」になった人は多かっただろう。
ただし、各地で簡単に橋を架けられるようになったのは、少なくとも近世以降のことである。江戸時代の江戸や大坂、京都でさえ、多くの川は渡し船で渡るもので、橋は珍しい存在だった。そして、「高橋さん」の一番古い記録は、奈良時代の古代豪族「高橋氏」にさかのぼることができる。
高橋氏は孝元天皇の皇子・大彦命(おおひこのみこと)の子孫である「膳(かしわで)氏」の末裔。天武天皇の時代に朝臣姓を賜った際に、大和国高橋にちなんで「高橋氏」に改姓したとされる(「膳」も名字として残り、難読だったため「ぜん」と読むようになった)。この大和国の「高橋」がどこを指したかについては、万葉集にも歌われた「布留の高橋」がある大和国山辺郡高橋(現在の奈良県天理市櫟本)とも、高橋神社のある大和国添上郡高橋(奈良市)ともいわれる。
高橋氏は朝廷の食膳を担当した内膳司(うちのかしわでのつかさ)、いわば料理番で、志摩国の国守も務めた。奈良時代末期には「高橋氏文」という、自らの家柄が料理番のライバル家よりも歴史的に優位であることを訴える文書を残している。確認できる最古のお家自慢と言っていいだろう。なお、そのライバルとなったのがやはり古代豪族の「安曇氏」で、子孫は字を「安住」に変えたものが多く、現代に続いている。
※『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)を元に再構成