父、あるいは母が亡くなった後、子世代を待ち受ける問題は数え上げたらきりがない。「おひとり」になった親を心配するがゆえ、良かれと思ってやったことが、思わぬ悲劇を招くことも多い。過酷な認知症介護、その費用の問題が生じるだけではなく、家庭崩壊やきょうだい喧嘩などにつながることも……。こんなはずじゃなかったと思った時には、もう手遅れだ。
在宅ひとり親の世話をするなかでは、子供同士で「お金」を巡るトラブルも頻発する。元銀行員(69)は、父が死んで年老いた母が残されたため、長男の責任感から同居を申し出た。2人の弟も「それがいいよ」と快諾した。
だが2年後に母が亡くなると、予期せぬ事態が生じた。
「次男と三男が弁護士を使い、銀行に対して母の預金通帳の情報開示を請求したんです。確かに私は母の口座から、介護のためにお金を引き出して使っていました。弟たちは、“使途不明の出金があるんじゃないか”と疑っているのでしょうが、私からすれば、母のために母のお金を使っただけで、やましいところは一点もありません。何に使ったのかも領収書にきちんと残してありました」
だが弟たちは納得せず、兄弟仲は悪化した。
「私と妻は、母と同居して通院の付き添いや生活のサポートなど金銭以外の苦労もたくさんしたにも関わらず、弟たちは一切感謝せず、情報開示に続いて財産の均等分割を要求してきました。怒りを通り越して情けないばかりです」
『残念な介護 楽になる介護』の著者であるファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏は、「親の介護が子供同士の金銭トラブルにつながるケースは多い」と語る。
「子供のうちのひとりが親を介護する場合、親のお金を使ったのか、その子供の持ち出しなのかがはっきりせず、トラブルになりがちです。いずれの場合も介護にかかった費用は、きっちり領収書やレシートを保存しておくことが肝要。施設に入所する場合は高額な一時金がかかることもあるので、なおさらお金の管理に注意すべきです」