コロナ禍も2年目に突入し、リモートワークが定着しつつある中、都会から脱出して田舎へ移住する人が増えている。自然に囲まれて健康的な生活を……と期待に胸を膨らませて移り住んだはいいが、現実はそんなに甘くない。体験者の声を聞いてみよう。
自給自足をめざして、2007年から福島県白河市の山中に移住した漫画家の守村大さんが語る。
「机にしがみつく暮らしが30年近く続き、ネタ切れ・蓄積疲労・倦怠。さぁ、どこに逃げるか、ということで出合ったのが、福島の山林でした。1万2000坪の山林は坪450円。手つかずの森に入植して、自分の理想に応じて開墾し、自力で丸太小屋を建てるぞと意気込む私に、『バッカじゃないの』と呆れ顔の嫁。でも、まさにその反応は正しかった。ガス、電気、水道等の生活インフラなしの山林に移住という私の提案は無謀でした。
最初は山のふもとのホームセンターで買ったカマ1本を手に踏み込んだものの、放置されていた山は荒れ放題。密生した雑木と林床には篠竹がびっしりと生い茂っていて、手で刈った切り株が竹槍状になってしまうんです。うっかり踏んだらスニーカーを突き破って大けがをしました。
なんとか500坪ほどの土地を拓きましたが、次の難関は生活拠点の小屋を造るための作業。切り株を1つ1つ引き抜かなくてはならず、25㎝ほどの太さの切り株の周りをスコップで掘り、根をむき出しにしてナタで伐っていく……この作業を繰り返して株を掘り出すのに丸1日はかかる。これは難儀だということで、中古のユンボ(油圧ショベル)を約80万円で購入し、開墾作業を続けていったのですが、ここでものすごい罪悪感に襲われました。
手掘りのときには気にならなかったんですが、木を殺しているという後ろめたさを感じるんです。自然と共生するどころか、破壊しているんじゃないかと。人並みに生活できる環境を整えるまでにかかった時間は約3年。でも、『逃避』がいつの間にか楽しい『挑戦』にシフトしていました。もし、山暮らしに『救済』を求めていたらくじけていましたね」