いざという時のリスクに備える保険が、リスクそのものになることがある。近年人気を集める認知症保険も、加入には慎重な判断が必要になる。認知症保険に加入した神奈川県の60代元会社員が語る。
「過去に妻の母親が認知症を発症し、介護で大変な思いをしたので、自分の子供には同じ経験をさせたくないと、一時金300万円の終身認知症保険に加入しました。月1万円の保険料は年金暮らしには重い負担でしたが、認知症になる前に持病の糖尿病が悪化。悩んだ末、治療費を捻出するため認知症保険を解約しました。解約返戻金も少なくて落ち込みました」
ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏が指摘する。
「認知症保険は、認知症と診断されたら100万~300万円の一時金が支払われるタイプが多いですが、そもそも認知症になるのは6人に1人。もちろん保険は万が一に備えるものですが、仮に発症した場合でも、高額療養費制度などを利用すれば自己負担をかなり抑えられます。保険は認知症にしか利用できませんが、そのお金を現金として持っておけば、認知症以外の様々な用途に使えます」
無駄になる可能性があるにもかかわらず、医療保険の支払いは年金受給者の生活を圧迫している。都内在住で年金暮らしをする70代男性が言う。
「様々な病気のリスクをカバーしたいと思い、長期入院保障が充実したA社と、通院保障が充実したB社の医療保険の2つに加入し、合わせて月額3万円弱を支払っています。さらに月額2万円の生命保険料も払っている。
私の年金受給額は月14万円ほど。年金の3割超が保険料です。さらに食費・光熱費を差し引くと自由に使えるお金はほとんどない。わずかな貯えを少しずつ切り崩しながら生活しています。解約を考えていますが、もしもっと早く決断できていたら、その分を預貯金に回せていたのに……」
また、生命保険は申請しない限り受け取れないので、「申し送りミス」にも注意したい。都内の60代女性がうつむいて語る。
「急逝した父から『お前のために生命保険に入った』と聞いていたが、死後に家中を探しても保険証書が見つからず、片っ端から保険会社に問い合わせてもダメ。そのまま死亡時から3年の受け取り時効を迎えました」