真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

米国のインフレ加速で忍び寄る「コロナバブル崩壊」の足音

 何より米国では、NYダウやナスダック総合指数などが過去最高値を更新し続けており、さすがにここまで急ピッチで上昇すると割高感は否めない。長期的に見て株価が割高かどうかを判断する、ノーベル経済学賞を受賞した米国のロバート・シラー教授が作った「CAPEレシオ(シラーPER)」という指標がある。これが30倍を超えると割高と言われるが、昨年から軒並み30倍を上回っており、今年5月末時点で37倍にも達している。歴史的に見ると、2008年のリーマン・ショック前は27倍台、1929年の世界大恐慌前は32倍台だったことからも、明らかに割高な水準と言える。指標を見る限り、もはやコロナバブルが弾けるのは自明の理なのだ。

金融緩和縮小の議論は早ければ6月にも

 株価を支える大きな要因となってきた「低金利」と「カネ余り」も、いつまでも続くわけではない。米FRB(連邦準備制度理事会)は2023年まで金融緩和を続けると表明しているが、米国ではインフレが加速している。5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5%と、4月から0.8ポイント拡大した。

 FRBはインフレを「一時的なもの」としているが、この先もインフレが加速するようなら金融政策の変更を余儀なくされる場面も出てくるだろう。気がかりなのは、米国の中古車価格と原油価格の上昇傾向が目立つことだ。折からの半導体不足で新車の減産が進むなか中古車の人気が高まり、中古車価格は20%以上も上昇。原油価格の代表的な指標であるWTI原油先物価格は1バレル=70ドル台の高値をつけている。産油国で原油の供給が大きく増えない見通しのため、当面は高値傾向が続くとの見方が強まっている。

 インフレが懸念される要因はほかにもある。コロナ対策として配られた1400ドルの給付金によって、懐の潤った米国民の働く意欲が薄まっていることもあってか、失業率も悪化。コロナで落ち込んだ景気が回復し需要が高まっているのに、供給サイドの働き手が増えていかなければ、これもまた物価上昇の要因につながっていくだろう。

 いくらFRBが「一時的」と片づけようとしても、様々な状況を合わせて考えてみると、この先インフレ傾向が収まるとは到底思えない。だとすれば、これまで米当局がコントロールしてきた状況は一変し、行動経済学で言う「コントロールの欠如」に陥る。それまで当たり前にコントロールできると思い込んできたことが一気に崩れてしまう可能性もあるのだ。

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