人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第23回は、コロナ禍で急騰した米電気自動車(EV)大手のテスラ株とビットコインの実態に迫る。
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史上最高値更新に沸いてきた米国株をはじめ主要な株式市場を見ていくと、大きな潮目の変化が見て取れるようになった。これまで、新型コロナウイルスの感染拡大でIT関連企業をはじめとする「グロース株(成長株)」中心の相場が続いてきたが、ここにきて「バリュー株(割安株)」相場へとシフトする“グレート・ローテーション”が起こっている。
大きな要因は、米長期金利の上昇である。金利が上がると、総じて割高なグロース株よりも、少しでも安定的な収益を得られる債券に資金がシフトするため、成長性の高い株は売り込まれてしまう。世界でワクチン接種が広がるなか、景気回復期待から金利が上昇するのに伴って、これまで隆盛を誇ってきたグロース株の魅力が薄れてきているのだ。
これまでのグロース株相場の象徴的存在が、EV(電気自動車)で名を馳せてきたテスラだろう。同社の株価は昨年3月の100ドル前後から今年1月には一時800ドルを超え、時価総額はトヨタ自動車を大きく引き離すほどにまで膨張した。株価急騰によって創業者のイーロン・マスク氏の保有資産額も大きく膨れ上がり、一時は世界一の富豪とされる米アマゾン・ドット・コムCEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス氏の資産を上回った。
テスラ株の急騰を支えてきたのは、コロナ対策のため各国の中央銀行がこぞって進めてきた大規模な金融緩和で、市場に資金が大量に流入したことによる「低金利」と「カネ余り(過剰流動性)」にほかならない。そして、テスラと同様に、世界的なカネ余りを背景に膨張してきたのが暗号資産(仮想通貨)の代表格である「ビットコイン」である。