親が高齢になると、子供が「実家を手放してほしい」と言い出すことがある。それに従ってばかりでもいけない。
「長男に『実家を売ってしまおう』と言われて首を縦に振ったのが間違いでした」。そう肩を落とすのは、福井県在住の70代男性。
「妻を亡くした後は自宅でひとり暮らしでしたが、離れて暮らす長男から『お父さんがいなくなったら誰も住まず、管理が大変になる。固定資産税や火災保険の負担も大きいので売却してほしい』と言われ、悩んだ末に自宅を処分して長男一家と同居を始めました。しかし、生活リズムが違いすぎてストレスが溜まるばかりです」
自宅を処分し、夫婦で駅近の中古マンションにダウンサイジングした埼玉県在住の80代男性も後悔を語る。
「街中のマンションは若い夫婦が多く、小さい子供の騒音が気になります。仲良くしていた地域の人たちとも離れてしまい、引っ越してから妻は元気がありません」
歳を重ねてからの生活環境の変化は、様々なリスクをはらむ。ファイナンシャルプランナーの小谷晴美氏が解説する。
「最も多いのは、『引っ越し先で新たな人間関係を築くのが難しい』という悩みです。高齢になってからでは近所の付き合いを始めるには遅すぎて、なかにはうつを発症する人もいます」
子供と同居を始めたとしても、生活パターンが合わないとお互いに不満ばかりが募る。自宅を売ってしまってから「やっぱり手放さなければよかった」と後悔しないためには、簡単に子供の求めに応じてはいけないのだ。小谷氏はこう言う。
「60~70代の時期を逃すと、ボランティアなどの地域活動に参加して人間関係を築くことも難しくなる。
仮に自宅を手放すことを検討する場合にも、処分する前に子供の家の近くなどにアパートを借りて、3か月から半年ほど『お試し』で生活してみるのが良いでしょう。お試し期間を体験して『やっぱりダメだ』と思ったら、一旦戻って別の対策を探ることも可能です」