その一方、自宅を改修しながら住み続けようとした場合も、子供の意向を聞いていると話が進まなくなる。福岡県在住の70代男性が肩を落とす。
「老後に備えて、300万円かけてバリアフリーにリフォームしました。自分たち夫婦のためだけでなく、“家を売ってお金にして遺すより、家のまま遺すほうが相続税対策になる”と聞いて、子供たちのためにもなると考えていました。ところが、長男は『お父さんたちが死んだら誰も住まないんだから、ムダなことにお金を使わないで』と激怒。親の老後より遺産が減ることが心配なのかと、愕然としましたよ」
税理士の山本宏氏によればこうしたケースは珍しくないという。
「この男性の言うように、どのみちリフォームが必要な古い自宅なのであれば、親の生前に改修したほうが、現金として残すよりも遺産額を圧縮できるので、相続税対策として有効です。親が熱心に相続税対策セミナーに出席し、子供のためにリフォームする話はよくあります。しかし、相続後に売却することを考えると、リフォームした後でも売却金額はあまり変わらない。だから、実家がいらない子供からすると“余計なことしやがって”ということになってしまう」
必ずしも子供の“言い分”を真に受ける必要はないと、山本氏は続ける。
「自分のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を下げてまで、子供の要求に応じることはない。子供の生活ではなく、自分たち夫婦の人生を最優先すべきです」
※週刊ポスト2021年7月16・23日号