長年勤め上げた会社で定年を迎えたからといって、悠々自適に暮らせるわけではない。その後の人生は現役時代と変わらないほど長く、生活費のやりくりの必要性はずっとついて回る。そのため、定年を機になにか新たな策を講じようと考える人は少なくない。
定年退職時にまとまった額の「退職金」を手にする人は多いが、この貴重な老後資金の扱いを誤ってしまう人は少なくないようだ。定年後の生活設計を専門とするファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。
「退職金が入ったことを知った銀行が、投資信託など金融商品の購入をすすめてくることがよくありますが、一括で使ってしまうのは絶対に避けるべき。投資はプロでも失敗することがある危険なものだと認識しましょう。
特に『毎月分配型』の投資信託は毎月お金が受け取れるのでお得に感じますが、運用益が出ていないと元本を削って分配金を出す場合もある。手数料も高いものが多く、損する危険があります。銀行は運用のプロではなく、販売のプロだと肝に銘じることが大切です」
つまり、銀行がこれらの金融商品を熱心にすすめるのは、自分たちが儲かるからなのだ。私たちが損をしても銀行は何も補填してくれないので、すすめられるままに従うのはやめたい。
住宅ローンが残っている人は、一括返済をして老後をスッキリ過ごしたいと考えることも多い。
しかし、本当にその必要性があるのか、じっくり検討すべきだと三原さんが指摘する。
「マイホームにいつまで住むのかをまずは考えるべき。もしかしたら、子供から『孫の育児を手伝って』と頼まれて転居するかもしれないし、老人ホームに入ることになるかもしれない。また、小さいマンションへの住み替えなどで、自宅を売却する可能性もないとはいえない。団体信用生命保険に加入しているなら、契約者が亡くなるとローン残高を肩代わりしてもらえる保険機能もある。安易な繰り上げ返済で大切な退職金を失う必要はありません」
住宅ローンは金利が低く抑えられていることが多い。好条件の融資を一括返済した後、「手持ち資金が尽きたから」といって高金利の自動車ローンを組むといった悪循環は絶対に避けたい。