メッシが抜けたといっても、スポンサー料が半額になることはない。向こう5年間で、さらに300億円前後の出費。売上高1兆4555億円、最終損益が1141億円の赤字(2020年12月期連結)の楽天にとって、それは決して小さな金額ではない。
三木谷が「ジョアン次第」と言うように、契約更新の交渉はこれからで、事態は流動的だ。それでも三木谷は今回の取材で、あと5年、メッシの胸の「Rakuten」のロゴが刻まれる可能性が高いことを匂わせた。
三木谷はなぜバルサにこだわるのか。その理由は8月4日、日本時間の深夜に明らかになった。
この日の午後11時過ぎ、楽天は、ドイツのインターネット会社、1&1(ワン・アンド・ワン)に対し、楽天が開発した携帯電話の完全仮想化技術「楽天・コミュニケーションズ・プラットフォーム(RCP)」を提供することで合意した、と発表した。2020年春、世界に先駆けて日本で実用化に成功した携帯電話ネットワークの「完全仮想化技術」。それをパッケージとして輸出するのだ。
日本の通信企業が海外に挑むのは「iモード」を世界に広げようとしたNTTドコモ、スプリント・ネクステルの買収で米国市場に参入したソフトバンクに続き3社目で、ドコモとソフトバンクは国際標準の厚い壁に跳ね返された。
RCPは完全仮想化技術を海外の通信会社に販売できるようパッケージ化したサービスで、1&1が最初の顧客になる。1&1はドイツの大手インターネット・プロバイダー。2019年にドイツ政府から5G(第五世代移動通信システム)の周波数帯域を獲得し、ドイツで「第四のMNO(自前の回線を持つ移動体通信事業者)」として携帯電話市場に参入することを決めている。
ドイツにはドイツ・テレコム(ブランド名はTモバイル)、テレフォニカ(同O2)、ボーダフォン(同・同)の三大携帯電話会社がある。そこに最後発で殴り込みをかけるというのは、楽天と全く同じ立ち位置だ。1&1もRCPを採用することで設備投資額を引き下げ、コスト競争力を高めるのが狙いである。
発表の翌日、8月5日の朝8時から、三木谷はオンライン・カンファレンスを開いた。カンファレンスには日本のみならず、米国、ヨーロッパ、アジアのメディア、証券アナリスト、170人が参加した。
「RCPのビジネスはいつ黒字化するのか」
米国の証券アナリストに問われた三木谷は、ネットワークの構築から保守・運用までを請け負う1&1との10年の契約を2500億~3000億円で受注したことを明らかにし、「今年は無理でも、極めて早い段階で黒字化する」と言明した。そしてこう続けた。
「アマゾンの収益はECとAWS(自社のデータセンターを使って顧客にクラウド・サービスを提供するアマゾン・ウェブ・サービス)で構成されている。RCPは楽天にとってAWSのようなものになるだろう」