新型コロナウイルスは働く環境にも大きく影響を与えている。もし勤務先からコロナ感染の可能性を理由に出勤停止を命じられた場合、賃金補償を要求できるのだろうか。補償を請求できる基準は何だろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
女性読者です。お盆に東京で働く娘が帰省。問題は誰かが娘の帰省をパート先のスーパーに告げ口したこと。結果、私は2週間の出勤停止。その間の賃金は支払われず。娘はワクチンを2回接種、PCRでの陰性証明も持参。それなのに、出勤停止は納得できません。せめて賃金補償をしてもらいたいです。
【回答】
使用者は、雇用契約に基づき、あなたに労務提供の機会を与え、その対価として賃金を支払う義務があります。出勤停止は、労務の提供を受けないことであり、法的にいえば、労働者の労働債務の履行の受領を拒絶する行為です。
民法では、債権者(この場合は使用者)の責に帰すべき事由で債務が履行できないときは、債権者は反対給付(賃金)の履行を拒めないのが原則です。つまり、正当な理由のない労務提供の受領拒絶の場合、労働者は賃金請求権を失わず、使用者は賃金全額を支給する義務があります。しかし、雇用契約は当事者で条件を定めることができ、強い立場の使用者がどんな状況でも、補償なしにする恐れがあることから、労基法26条で「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」とし、多くの会社では就業規則に、休業補償に関する定めを置いています。
通常、就業規則では従業員が病気で働けない場合や就業させると病気を感染させる恐れがある場合には、休業を命じられることを定めています。これらの場合、就業をさせないことについて会社の責に帰すべき事由とはいえないので、賃金の補償がないのが普通です(その場合でも、補償する就業規則を定めた会社もあります)。