給料に見合わない過酷な労働環境で苦しんでいる会社員がいる一方で、業務量が少なくて暇すぎる会社員も存在する。そうした人を見て、「あの人は『社内ニート』だから……」と揶揄する声もあるという。本来、ニートとは「就学・就労・職業訓練のいずれも行なっていない若者」を表わす言葉で、会社に就職している時点でニートではないはずだが、特に若い世代の場合、あまり仕事をしていないとどうしても社内で目立ってしまう。中には「仕事をしなくても給料がもらえるのはうらやましい」と思う人もいるだろうが、若くしてその立場になった人たちは、焦燥感や危機感を抱いているようだ。当事者たちの苦悩の声を聞いた。
3時間で終わる仕事を6時間かけてやる
「仕事がないのに、仕事をしているふりを続けることは、本当に精神的につらい。毎日毎日、8時間をどう乗り切るか、必死で考えなくてはなりませんでした」
そう振り返るのは、自称「元・社内ニート」で、現在はIT企業に勤務する30代男性・Aさんだ。新卒で中小企業の営業職として入社したが、約2年もの間、営業事務に近い形で“放置”された。Aさん本人は「なぜそんなことになったのか、思い当たるフシがない」と言うが、配属部署の上司や先輩からはほとんど仕事をもらえなかった。
「ネットサーフィンだけだと限界があるので、仕事をやってる感を出すために、WordかExcelに、『つらい、つらい、つらい』『もう無理かも』といった言葉を入力していたことも。たまに先輩から営業資料の作成を任された時はうれしかったですね。『明日中でいいから』と言われても、3時間くらいで終わってしまう仕事。早く出してもいいけれど、ほかにやる仕事がないことが恐ろしくて、倍の6時間をかけたものです」(Aさん)
大学時代の友人たちに会えば、自分が出遅れていることは明らかで、このままでは何もできないまま時だけが経っていくことに焦りを感じたAさん。「第二新卒」枠で転職する計画を立てたが、アピールできる実績がないのがネックだった。
「営業職なのだから、営業らしいことをしようと、目ぼしい企業に片っ端から電話営業したこともありました。他部署の派遣社員から書類作成のコツを教えてもらい、経理業務を手伝ったことや、Excelを学習して業務自動化に取り組もうとしたことも」(Aさん)
やることがほとんどない業務中に転職サイトを閲覧しながら、履歴書・職務経歴書を作成し、営業職ではなく経理職として転職に成功。Aさんは現在、働く喜びにあふれているという。
「やっぱり、しっかり働いてお金をもらって飲む酒はおいしいです」(Aさん)