中国では昨年、国家の目指す新たな大方針が示された。それが日本のメディアでも盛んに取り上げられている「共同富裕」である。
“先に豊かになれる人から豊かになればよい”。トウ小平時代から続く、経済発展を優先させる戦略は、2020年に国民全体がある程度余裕のある生活レベル(全面的な小康社会)に達したと共産党が総括したことで完了した。そして、次に目指す大目標が、“みんながともに豊かになる社会(共同富裕)”の形成だ。
高成長の副作用は大きい。まずはこれまで重視されてこなかった“平等、公平、公正”について、しっかりと見直すべきだということになった。
超法規的な形で金融業にまで踏み込んでいたアリババグループの経営を正し、資金力にものを言わせて違法な価格競争を仕掛けたり、有利な立場を利用して下請けの経営を圧迫するなど独占禁止法違反を続けてきたりしたネット系企業、子供の教育への悪影響を顧みず普及に邁進したゲーム企業、子供に十分な教育機会を与えたいと願う親の気持ちにつけこんで高収益をあげていた教育事業系企業などが一斉に粛清されることになった。
不動産バブルを厳しく抑制する政策も含めて考えれば、共同富裕といえば短期的には経済成長を抑える効果のある政策ばかりが目立っていた。中国は社会主義化が進み、イノベーションにおける最大の牽引役であるアニマルスピリットが失われ、中国経済の成長は止まるのではないか、衰退に向かうのではないかといった意見さえ聞こえるようになっていた。
優秀な人材を集めるための政策
しかし一方で、こうした危惧を払拭するような政策も出ている。その一つが浙江省による“共同富裕”促進策である。
国家発展改革委員会は2月17日、記者会見において、質の高い“共同富裕”発展建設の推進をサポートするためのモデル地区に指定されている浙江省の取り組みを紹介している。
その中で最も注目されたのは、就業、イノベーションに関する“破格の融資政策”である。
大卒以上の高等教育を受けた卒業生が浙江省で職を得た場合、2万(36万円、1元=18円で換算、以下同様)~40万元(720万円)の範囲で生活補助金、住宅手当あるいは住宅購入補助金を受けることができる。また、浙江省内で起業したければ10万(180万円)~50万元(900万円)の範囲で資金を借りることができる。
しかも、起業に失敗したとしても、10万元(180万円)までは100%、それを超える部分は80%を浙江省政府が弁済してくれる。さらに、大学生が家業についたり、両親の面倒をみたり、近代的な方法で農業に従事したりすれば、10万元の創業補助金を受けることができ、毎年1万元の就業補助金を連続3年間受け取ることができる。
とにかく、経済発展には優秀な人材が欠かせない。これは浙江省の例だが、そのほか、雲南省、四川省などでも、優秀な人材を引き寄せるための政策が打ち出されている。