人間の行動は必ずしも合理的ではない。人は誰しも先入観や思い込みゆえ、正しくない行動をしてしまうことがある。伝統的な経済学ではうまく説明できなかった社会現象や経済行動を、人間行動の観察や実験を通してとらえようとするのが「行動経済学」だ。貯金の習慣がなく、貯金ゼロ状態が続いている、女性セブンの名物ライター・野原広子さん(64才。通称・オバ記者)の行動を、行動経済学者の橋本之克さんがひもとく。【全4回の第3回。第1回 第2回を読む】
【Q:橋本さんからの出題】
ギャンブルで1万円を賭けたら8000円に減ってしまいました。オバ記者さんならどうしますか。
オバ記者:オケラになったわけじゃないし、軍資金がまだ8000円あるのなら、せめて元の金額の1万円まで戻したくなるわね、ウン。
橋本さん:おやおや、先ほどの反省があまり活かされていないようですね(笑い)。「序盤で負けても、最終レースで取り戻せばいい」「損したままでは終わりたくない」という心理が働くんだと思いますが、損した分を取り戻そうとして、リスクのある行動をつい取ってしまうことは、ギャンブルにありがちです。
オバ記者:株の“やれやれ売り”(“やれやれの売り”とも)も似たような心理ね。
橋本さん:そうです。やれやれ売りは、株価が下がっても株を持ち続けて、購入価格程度に回復した段階で売却することを指しますが、売却時に株で儲けた以上にうれしさを感じるといわれています。実際は、購入前の状態に戻っただけなんですけどね。
オバ記者:まぁ、そこまで持ち続けるのも忍耐が必要だけどね。
橋本さん:冒頭の質問については別掲図を見ていただければわかるように、損をしないよう元の金額に戻そうとするのは簡単ではないのです。こうした行動経済学の法則を知っておくと、ギャンブルで頭に血がのぼったときに踏みとどまれるかもしれません。「もうひと勝負したいけど、やめておこう」という警告を自分に出せるようになるからです。
オバ記者:知識や技術になまじ自信を持っていたり、「なんだか今日は勝てる気がする!」っていう気分になるのがヤバイのね。冷静さを失っているから。